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アラマホシーズンズ

 日課は一つ。本間次郎が自分を覚えたか、確認する。たったそれだけの行動理念に基づいて、荒瀬は彼を見かけるや否や悪癖を全開させる。

「今日も元気に登校してて草。ホンマアホの癖に」
元気だけが取り柄だもんな。そう言外に含めれば、髪より真っ赤に怒った表情の本間がつかみかかるように返事をする。
「っだぁ!荒瀬?だっけ毎日毎日嫌味言いやがって!お前なんてアホ瀬だ!アホ瀬!」
最初の頃こそ邪険に扱っていた本間も、三週間も経てば流石に慣れたようで、1.5倍の勢いで罵声をお見舞いしてくる。
しかも、荒瀬が自分の名前や容姿しか攻撃対象にしないと気づいてからは、まるでルールにのっとるかのように合わせてきた。

「じゃあな。物覚えの悪いジロウラモ」
「誰がジロウラモじゃ! ハッでもあのタレントってイケオジっていうかハンサムだよな……もしかして俺って今誉められた!?」
一人で発展させて盛り上がる所も見ていて退屈しない。
「そんな訳ないだろ」
一歩下がると、本間のクラスの生徒がすっと割って入りそのまま会話を始める。
突然本間次郎限定で辛辣になった荒瀬に、周囲も戸惑っていたのは数日前までの話。今ではこうして仲裁に入る事も多くなってきた。
諭すように肩を軽く叩いて、そのまま教室へと消えていく二人。その距離感が羨ましかった。

 絡み始める少し前、実家の本屋を手伝っている時の事だ。
不意に荒瀬は見覚えのあるワードが記された書籍に遭遇した。ゲームなど無縁の生活を送ってきた自分にとっては未知のジャンルであるそのコーナーにあったのは。

「これ、本間がやってるオンラインゲームとやらの……」
徹底攻略の四文字が踊るそれは、初心者向けのガイドブックだった。
勢いのまま実費で購入し自室に持ち帰ると、気づいた時にはPCにゲームをインストールしていた。
ある程度自由にキャラクターをカスタマイズ出来ると聞いて、チュートリアルの画面でしばし考え込む。

(どうせなら自分とちょっと違う姿にしてみようか)
浅葱色の髪は、鮮やかな太陽のようなオレンジの長髪に。そして白いシルクハットに燕尾服を着込めば、後衛のメインである魔法職にありがちな標準装備の完成だ。

 一番最初の街に降り立って、熟練の猛者からの熱烈な歓迎を受ける。
誰に話しかけようか。そう思った刹那、どこかの誰かを彷彿とさせる赤髪が横切った。
「お兄さんカッコいいな、魔法職ですか?」
思わず、話しかけてしまっていた。まさかそれがよもや本間次郎その人とは知らずに。
紆余曲折を経てパーティーを組んだその人は、どうやらこのゲームの初期からプレイしている、所謂カンストユーザーという人らしい。
自然体な砕けた口調は人なつこく、すっかりリヒターはマホンに夢中になってしまった。
もはや本来の目的など見失ったまま、二人はプレイをして、いつしか奇妙な三人組と出会ってギルドも作るようになった。
ギルド名の由来をフレンドが記したのを眺めながら、自分にとってのあらまほしは、この今の距離感だと思った。
(僕はもっと、マホンとリヒターみたいに、本間次郎と仲良くなりたい)

 そうしてすっかりオンラインゲームが日常の中心になり始めた頃、オークションでグッズを集めて日常生活に取り入れるようになった。
浅葱色の髪の上にはニット帽。そこにはあのゲームの精霊姫のピンバッヂを添える。
あわよくば本間が気づいて、ケンカじゃなく普通の会話も出来るんじゃないかとひっそり期待をしてみたりして。
三年生に進級し、同じクラスになってからも相変わらずの喧嘩腰ではあったが、環境が変わるのはいい事だ。
「荒瀬君、三年になってから機嫌良くなったね」
二年から同じクラスだったウララに指摘されるまで、自分の変化にも気づかなかったが。
そんな矢先、まさに青天の霹靂ともいうべき事態が起こった。
担任のいたずらな配慮によって、文化祭の実行委員に本間と荒瀬が二人選ばれてしまったのだ。
本来であれば男女一人ずつ選ばれる筈のそれが、何故このような形になっているか。それはひとえに、クラスの和を乱す不安因子である犬猿の仲を、これで上手く解消しようという魂胆だった。
こんな風に無理矢理近づけられるのは自分の性に合わない。折角自力でなんとかしようと計画しているのにこれでは水の泡じゃないか。
不服な表情で告知を見る本間と目が合い、そのまま職員室へ向かうももはや撤回は不可能らしい。諦めた様子の彼を見ていると無意識のうちに舌打ちしてしまう。

(ふーん……僕と一緒になるのがそんなに嫌ですかっての)
自業自得ではあるが。やはり嫌われていると思わされるのは面白くない。
帰宅してすぐログインすると、珍しくマホンの方が先にフィールド上にいるではないか。
このストレスを癒して貰わねばと会話をしていると、意外な事実が明るみに出た。

「来月文化祭でな 高3で最後だからって実行委員押しつけられた」
本当に同じ年齢であった事もさる事ながら、驚く程自分と境遇が似通っていたのが妙に嬉しい。
年齢の点にだけ言及すれば、向こうからも嬉しそうな反応が返ってきた。

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あきゅろす。
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