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アラマホシーズンズ

 どんな年代でも、卒業の時期が近づくと別れを痛感させられるのかカップルの成立が増える傾向にある。ついこの間まで仲の良いクラスメイトだった筈が急激に親しげな態度を見せ合っていたら、大抵の場合それはクロだと荒瀬理人は思っていた。
まさか自分が、その当事者になるとは露知らずにー。

 それは、高校受験も終わり後は卒業式を待つだけとなった中学三年次のある冬の事。
「荒瀬君、こんな事言うの変かも知れないんだけど」
そう言って放課後の屋上へと荒瀬を呼び出したのは、三年間同じクラスで腐れ縁のようによく遊んでいた親友の一人だった。
夕映えなのか興奮状態にあるのか、彼の顔はまるで噴火する直前のように煌々と色づいている。
「俺、県外の高校行くって話したじゃん?それで、さ……」
もじもじと指を交わらせるその姿はとても男とは思えない。しかし様になってしまうのは本人が持ち得る特性だろうか。
一度声を出したきり頑なに口を閉ざした事に荒瀬は痺れを切らし先を促せば、意外な返答が返ってきた。
「荒瀬君と一緒にいると、本当の自分になれた気がしてずっと楽だったんだ。でも学校が違ったらもう会えないって思って。だから、荒瀬君さえ、良ければー俺と付き合って欲しいんだ」
「えっと、僕もアンタも同性なんだけど」
「それはもう半年くらい前から悩んで自分なりに折り合いつけた。もちろん、フラれる覚悟もあるよ。そうじゃなきゃ、こうして呼び出したりしない」
強気な宣言をしてみせても、それなりに緊張もするのだろう。彼はいよいよ俯いてしまう。
正直な所、半年も前からそんな目で見られていた事に関しては衝撃しかなかった。
しかしそれよりも、好奇心というか興味めいた感情の方が理人の中で勝っていた。

「……普通だったら世間体とか考えて諦めそうなモンなのに、アンタは僕の気持ちなんて思いもせずにそんな事ダラダラと言えるなんてある意味スゴいよ」
うっかり口を滑って罵声が飛び出してしまったが、素直に凄いとも思っている。
いつも通りの態度でようやくほっとしたのか彼は、やっぱりダメか、と呟いた。
「え、別にいいけど、僕は」
そこに、追い打ちをかけるように理人は言ってやる。諦めの悪い人は、理人の好みだ。
こぼれそうな程の涙をためて、彼はこちらをおずおずと見る。
こうして荒瀬理人に、初めての『彼氏』が出来る事となった。

 ーしかしながら、お付き合いという関係がうまい事進行していたのはたった二ヶ月くらいの期間だった。
入学して一週間目の最初の休日。わざわざ会いに来た彼氏は、理人の変わらない様子に安堵していた。
その翌週は、寧ろ変わらない事に心配し、友達は多く作れとお説教をかました。
そしてその次は、友達と遊んだ事を報告し、嫉妬をさせるなと改めて怒られる。
しかし、それでも折角告白してきてくれた彼の好意には報いたいと思っていた。
今はまだ友人関係の延長でも、いつかは愛せるかも知れないと信じたかった。

そうして少し会いにくさを抱えたまま迎えた次の休日。髪型が大きく変化した恋人を前に理人は絶句した。
それまでは優等生のような艶のある黒い髪を耳にかけるくらいまで伸ばしていた。
それが見事なまでのアシンメトリーになって、片側には青と金のメッシュが入っているではないか。
彼の周囲の友人が、あまり真面目ではないというのは話の節々から感じてはいた。
口を出すだけ無駄だろうという事も同時に悟ってはいたが。
そして、微妙に狂い始めた歯車のまま一ヶ月が過ぎ、すっかり連絡が途絶えたかと思えば、ある日突然彼は理人の学校へと会いに来た。
あまりよろしくない、友人を連れて。

「ごめん荒瀬君。俺もうキミとは付き合えない……物理的に距離があって、この気持ちが恋じゃないってやっと気づけたんだ」
「ーいや、別にいいけどよ」
「また別にって言ってる。それ荒瀬君の悪い癖だよー次の人とは、ちゃんと“別の人”じゃなく、他人事じゃなく自分の事としてちゃんと考えなね。これ一応恋人としての最後の忠告」
「お、おう」
相も変わらず一方的にまくし立てて満足するのは変わりないのに、素っ気なく友人を引き連れて帰って行く姿は目新しい。自分がフラれたような立場となって初めて理人は少し寂しさを感じた。
そして、そんな一方的に話している事でも聞いていられたのは、彼の声が好きだったからだと気づくのだった。
たった二ヶ月のいびつな関係だったとしても、ちゃんと愛する事は出来ていたのだ。

 そうしてフリーの状態へと戻った理人だったが、そんな彼自身に転機が訪れたのは夏休みの事だった。
登校日、早く到着しすぎて校門すら明いていないそうな早朝に、見知らぬ真っ赤な髪が立っていた。

「おはよう、ございます?」
もしかしたら幽霊なのではないかと思う程、髪の色とは正反対に存在感のないひょろりとした背に声をかければ、おじぎついでに返事がくる。
「どうも、早いな」
たった一言。なんて事はない挨拶が、矢を射抜くような感覚となって胸を襲う。
見た目は全く異なるというのに、目の前のこの人物はどうしてかつい先日までの恋人に声色がよく似ていた。

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