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アラマホシーズンズ

 本間次郎の本職はしがないウェブライターである。コラムニストだとか別名で紹介される事もあるが、本人的には“世界に火をつける”という身勝手なポリシーから前者を気に入っている。
しかしながら、その広い世界には多くの才能が溢れており、自分にはとても太刀打ちが出来ない事は理解していた。
だからこそ、ある程度のラインで諦めて、編集長などの上の地位は目指さないのだ。
それが幸いしたのかは定かではないが、振られた仕事をこなしてさえいれば定時きっかりに退社しようと文句を言われない事が有り難い。

 19時になるや否や、次郎は会社から駅まで全力疾走していた。
夕食を済ませても帰宅してからあのゲームをプレイ出来る時間は少ない。
睡眠を4時間半とれれば良いと言うことにしても、朝シャワーを浴びるのであれば3時には床に就く必要があるのだ。
早く炊ける炊飯器に材料と無洗米を放り投げてスイッチをいれながら、片手間にノートパソコンを起動させる。
時間がない夜は、たいてい適当な炊き込みご飯で済ませてしまう。
少なくともあと2ヶ月―このゲームが終わるその日までは、この生活が続く事になりそうだと思いながら汗を拭った。

 ログインをして、受け取り忘れていたチュートリアルの報酬である限定アイテムを装備しようとして、ふとレベルが5になっている事に気がつく。
ガーディアンを設置すると、自分のキャラクターの背後に頼もしそうな存在が追加された。
道具屋で回復アイテムを手に入れ、ゲーム内での準備を完了させる。
さてまずは身近なNPCのクエストからこなしていこうかと周囲を見回して、びっくりする程閑散としている事実を知らされる。
かつてここは、初心者と上級者が出会う運命的な場所で、常に80人以上がごった返していたというのに。
今は―自分を含めて片手で数えても足りないくらいだ。

「これが終焉……フッ」
闇の魔術師さながらの言葉が不意にこぼれる。
つっこみを入れてくれるであろう相手は生憎とそこにはいない。
ただ空しいだけの時間が過ぎたその時、現実世界では炊飯器から愉快な音が響き渡った。

 一人暮らしをしていると、誰にも咎められる事がないためか料理がおろそかになり、栄養も偏りがちになる。
嗚呼こんな時、嫁の一人でも居れば良かったのかも知れないが、次郎にとっては恋人など雀の涙程の経験しかない。

「リープリヒが三次元にきて飯作ってくれりゃいいのに」
どんぶりに適当に盛りつけたツナと人参の炊き込みご飯をスプーンですくいあげため息を吐く。
二次元の―それも自分がかつてゲームの世界で作っていた女の子のキャラクターを想像するなど、もはや枯れているといっても過言ではないのではないだろうか。

 落とし物を探してきてほしいというNPCは、見慣れない立ち姿をしていた。
次郎が辞めてしまった後に追加されたのだろう、不思議な気持ちでセリフを読む。
内容を要約すれば、近隣のモンスターを倒すとドロップするアイテムの一つを、集めて持っていけば良いらしい。

早速と街から外へと飛び出せば、そのあまりの光景に思わずスクリーンショットにおさめてしまった。

「ガーゴイルって、運命城にだけ出現するんじゃなかったのか?」
可愛らしいモンスターに混じって、黒々しい見た目が一つ。
紛れもなくそれは、上級エリアにしかお目にかかれないガーゴイルその者だった。

 聞いた事がある。長く続いているゲームというものは、それだけ増え続ける既存ユーザーをいかに飽きさせないかという工夫が大切なのだ。
初心者にとっては少々苦痛であるが、最初のエリアに強いモンスターを配置する事で、上級者に手助けをさせて、熟練未熟関係なく交流出来るようにするのだと。

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