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アラマホシーズンズ

 翌日。本日も露店をばと個人ショップを開いたマホンの横には、当然のようにリヒターが鎮座している。
狩りにいかないのか、採集しないのかと尋ねてもふんぞり返ったままで、何をするでもなく会話を楽しんでいる様子だ。
そうして、ふと話題が途切れた時の事だ。

 「最後だから言うけどさぁ…僕リープリヒでヌいたわ。ゴメン」
絶句するような一文が目に飛び込んできて、マウスは落ちるわキーボードは乱舞するわで次郎はてんやわんやだった。
沈黙を落としたマホンが心配になったのか、画面の中のリヒターは顔を覗き込むようなアクションをとっている。
どんな反応すれば良いものかと一字打っては消してをしばし繰り返したあと、意を決して次郎は返事をする事にした。
 
「スマンリアルに茶を噴いた リープリヒがなんだって?」
「いやだからこないだキスしてる時に初めてDEEP発動したじゃん?あの時うっかり勃っちゃったワケなんすよ」
冷静になって見ていても気が触れたとしか思えない文言だ。いくら女性キャラクターとは言え、相手は同性だと言うのにーしかし、次郎にも心当たりがあったせいか、そこまでは否定しきれない面もあった。オブラートに包んで常識的指導をする。

「やめろウチの子を汚すな」
「ケチくさい事言いなさんな、僕の嫁だ」
思えば結婚してから結構な時間が経っているようなそうでもないような、すっかり夫ぶった態度が板に付いてきており、もうすぐそれが見られないとなると切なくされる。
自分で決意した事である事を無視して、ではあるが。

 いつもと変わらないように感じるのは、彼やギルドメンバー達が別れを明るくするためにそう態度を変えずに努めてくれているせいだろうか。
なんだかそれが申し分なくて、次郎は自分の持ちうる伝説級の装備を1つずつ彼らにプレゼントした。
ベータテストプレイヤーのみ配布された盾と、剣と、ガーディアンとー初期装備にはそぐわしくないシルクハットは、いつまでも同じ燕尾服姿の彼に。
嬉しそうに被るその姿は、髪の色こそ違えばニット帽の荒瀬に瓜二つだ。
ちなみに、あらまほしはマホンの引退ともに解散する事が決定していた。
曰く、「マホン以外のギルドマスターなど考えられない」との事だ。
その言葉だけでも十分嬉しかったし、彼らが自分よりもずっとずっとプレイし続けて、このゲームの繁栄を見守っていて欲しいと願うばかりだった。

 登校すれば、すっかり軟化した荒瀬とは一言二言しか話す事はなくなっていた。
時折、視線のようなものを感じる事はあれど、そちらの方向へと目を向けると逸らされてしまう。
ずっと文化祭の時に言っていた、“仲良くなりたかった人”の話が気にかかってこそいたが、タイミングを掴めないままずるずると引きずってきてしまっていた。
聞き耳だけは一人前にそば立てているからこそ、教室内のどこにいようと彼のよく通る声が届く。

「王子、良かったら今度の祝日カラオケ行かない?私またあのザイル聞きたいんだけど」
「悪いけどその日はパス」
「予定あったかーごめんね」
「うん、僕の勝負がかかった日だから」
次郎はそこまで聞いてぎくりと背筋が凍るような思いがした。自分が一体何をしたというのか、記憶違いでなければその日はオフ会をする日ではないか。
もしかすれば、その前後に何かしらの用事があって、リヒターとマホンはちょっとした小さなイベントでしかないのかも知れない。きっとそうだ。そうでないと、今もこうしてビシビシと頭に刺さるような視線に耐えられそうになかった。

(そういえば、あいつがあのゲームを始めたのって、同級生がやってたからなんだよな。この学年にもう一人プレイヤーがいるのか……全然気がつかなかった)
一年生の頃、大々的に宣伝したから一人くらいは興味を持っていたのかも知れない。しかしその当人は見つからずよりにもよってトリ頭と遭遇してしまっていたとは荒瀬も運のない奴だと次郎は自嘲したくなった。

 家に帰れば、兄が待ってましたと言わんばかりに自室へと招き入れてくる。
もともと作戦というキーワードが好きな性格をしている壱朗は次郎の計画を聞いてすっかり乗り気になっていた。

「話し方はどうしようか? フッ……お初にお目にかかる、本間だ、でどう?」
「いや、普段のチャットのままでいいから、このスクショ見てくれ」
PCを指さして、ギルドメンバーとの他愛もない会話を見せる。
改めて見てみると、全く考えずに入力された言葉の数々は黒歴史になりそうな恥ずかしさをはらんでいる。

「つまんねぇなぁ。大体、このガタイで高校生って無理ない?俺自信なくなりそう」
「兄貴ベビーフェイスだから大丈夫だろ多分……」
「あら、そうウフフ」
誉め言葉として言ったつもりはなかったが兄はやけに嬉しそうに頬をかいた。
兄弟とは思えないようなそこそこ整った見た目である彼は、時折次郎と並んであるけば双子と思われる事もあるあどけなさを保っていた。
だからこそ、次郎は思いついたのだ。同じ“本間”を使って、オフ会をすり替える作戦を。
その為には、兄には今までの全てをさらけ出して、可能な限り違和感のないように接して貰う練習をする必要があった。

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