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アラマホシーズンズ

 それからと言うもの、二人で狩りをすれば事あるごとにリヒターはリープリヒの唇をねだるようになった。
親友が変態になってしまったのではないかと最初の頃こそ次郎も心配したものだが、それも徐々に自分をからかうための事だと気づいてからは対応を改めた。

 「そういえばなんだがリヒターの名前ってドイツ語からきてるんだったっけか」
「本当に急に話変わったな…それ、前に話したっけ?」
「リープリヒの命名の時に聞いたような ん? 自分で調べたんだっけか 忘れたスマン」
そこまでマホンが言った時、「一旦退席する」と言ってリヒターの動きが止まった。
もしかしたら、触れてはいけない地雷のような話題だったのかも知れないと反省しかけた、その時だ。

 「全然いいけどー。でもそれ半分正解ってトコロだから訂正さして」
リヒターが、わざわざギルドチャットから一対一のプライベートモードに切り替えて続きを話し始めたのは。

「こんな事言ったらマホンは怒るかも知れないと承知で言うけど」
気にしないから、さっさと言って欲しい。妙な胸騒ぎが、画面の外の次郎に走り出す。

「…さんきゅ。僕さ、このゲーム始めたきっかけが気になる人に近づく為だったんだよ」
「気になる人?」
「高校の同級生なんだけど、ソイツの唯一の趣味がコレでさ。少しでも話が出来たらって。だから名前も実は本名のモジリだったりするんだよ」
「ちょい待ち お前もしかして外国人とかハーフとかなの?」
見当違いな返答だと自覚しながらも、そこは確認せずにはいられなかった。
勿論それはリヒターにも伝わっているようで、大きく首を振って彼は再び口を開いた。

「あんまネトゲで本名言うの危険だなって思うけど、下の名前リヒトから持ってきてる。正真正銘日本人だよ」
「そうだったのか! 俺も名字からモジってるから親近感沸くなそれは」
本名の件は速攻で忘れるから安心して欲しい。そこまで言えばほっとしたようにリヒターはぐっと背を伸ばした。

「ここまできたらマホンちゃんも言っちゃえばいいのに。名前。」
そして、急に表情を通常に戻したかと思えば、矢継ぎ早にマホンへ告げた。

「でも俺は名字だしなぁ 下の名前より何気に言いにくくね?」
ここまで名前の話が広がるとも思っていなかった次郎は、急に冷や汗のようなものが背中をつたう感覚がした。
リヒターに試されているような、何かを引き出されそうな。
するとリヒターは、“やっぱり”とだけ言ったかと思えばいつものおちゃらけた態度へ戻って見せた。

「いやいやそんなカタくなんなって!ゴメン変な話してーってモトはと言えばマホっちが振ってきた事じゃない!イヤン!責任とって結婚してよね!してたわ!」
ギルドチャットにそんな事をまくしたてるものだから、事情の掴めないメンバーからは疑問の声が挙がる。
しかし、知った事かと言った様子でリヒターは身を翻す。
「いっけねもう23時ジャマイカ!シンデレラは一足先にドロ〜ンしますぞ〜」
「中途半端に古過ぎて逆に新しいかよ」
そのマホンのつっこみが届いたかどうかはさておき、本当にリヒターはログアウトしてしまう。
何だったのかと詰め寄られそうな気配を察した次郎も、次に続けと言わんばかりに退却する事にした。

 PCを兄に託してベッドに体を滑り込ませた次郎は、冴えきってしまった頭では睡眠など出来そうにないとすぐ様起きあがって三角座りに切り替える。
そして、先ほどのやけに食いついてくるリヒターに感じた違和感を整理してみる事にした。

(気になる人ー最近ほかの場所でもそのワードを聞いたと思ったんだよな。そうだ、あれは確か文化祭の)
打ち上げ前に待っている時、荒瀬が似たような事を言っていた。
しかし、今は関係ないだろうとその回想は横に置いておくとして、次の議題に移る。

どうして、あんなにもマホンの由来になった名字を知りたがったのか。
そもそも、何故自分にわざわざリヒターの本名を明かしたのか。
彼は、何かに気づかせたいという明確な意志表示をしていたのではないか。

「リヒト、りひと……?」
言葉に出してみても、あまりにも馴染みのない発音だ。
しかし初めてではないという実感はあった。つまり、リヒトは所謂リアルでの知り合いなのではないか。
そしてそれを、次郎に気づかせる事で得られるメリットー協力して貰おうというのが妥当な線だろうか。
成る程。奇しくも先にマホンが本間次郎である事に気がついてしまったからこそ、同級生なのだから手伝いやすいだろうと踏んでいそうだと次郎は思った。

それなら早く思い出してあげなければ。目を堅く閉じて、せめてクラスメイトの中にはいないで欲しいと思いながら名前を挙げていく。
ーそうして、次郎はあの張り紙を思い出した。文化祭の実行委員にさせられた、忘れたくても忘れられないあの件を。

「……あらせ、りひと?」
毎日のように顔を合わせれば憎まれ口を叩いていたその人は。
諦めなければ何とかなると説得してきたあの人は。
なるほど、全てのピースがはまるように、ストンと事実だけが次郎の胸に落ちてくる。
二つの人物が完全に重なったその時、次郎は気がつきたくなかった自分の本心に、頭を抱えたくなった。

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