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アラマホシーズンズ

 このゲームには一度転職しているキャラクターを成人済みと設定し、男女のカップルであれば結婚という契りを結ぶ事が出来るのだ。
二人にしか使えないスキル―平たく言えば接触する方法が増え、狩りもお互いより助け合えるように強化される。
一人でプレイした時ではあまりにも興味がなかったからこそ、次郎は存在すら忘れており、だからこそ余計に心臓が高鳴ってしまうのだった。

「確かにカップルのスチルとかあるんだよな 面白そうだしいいぞ」
「よっしゃ!そうこなくっちゃ!」
そうと決まれば早い所クリアしなければ彼にお礼すら出来ない。
人生でも滅多に見られない程のスピードでモンスターをなぎ倒して、自己最短の記録でリープリヒはディーラーへと進化した。勿論、約束の目標はあっさりと達成した上で。

 リヒターが待つ街へと戻ると、そこには見知った顔が3つ。マホンがマスターを務める少数精鋭のギルド・あらまほしのメンバー達だ。

「面目ない口がすべった」
「マスターご結婚おめでとう!サブ作ってたなんてもっと早く教えてよね〜!」
「す すまない 恥ずかしくてだな」
「女の子の見た目だとその口調はアカンのう……ねぇ結婚式見たいからPT組ませて!ってかフレなりたい!」
「リープリヒは僕の嫁(予定)なんで」
「早くも旦那(仮)が嫉妬してるw」
賑やかな仲間が集まるとあっという間に場が盛り上がる。
ウェディングドレスをショップで買って、サムシングオールドをメンバーに貰えば、二人で交換した『誓いの指輪』をダブルクリックして結婚式場へワープした。

 上を見てもどこまでも天井が続くような広いチャペルの中に、たった5人と神父のNPC―精霊姫の愛する親友・ココペリが立っている。
ゲームの世界の文字列で神父が文言を読み上げていると、次郎は何故か急激に緊張を感じた。

「―アンタはさ、前はよく諦めが肝心って言ってたじゃん?」
式が粛々と進む中、不意にリヒターが1対1で耳打ちチャットを送信してくる。
「今も割とそうだけどな」
集中しろという意味を込めて出来る限り簡素に返せば、彼は一瞬黙ってから再び口を開く。
「なんでそうなっちゃったん?ほら、一応夫になるんだし聞いとこうかな、みたいな」
「ゲーム上だけだろう まぁあまり面白い話でもないけどな」

 そして、次郎は回想する。幼い頃、兄と比べられ劣等感を味わっていた事、兄のお下がりを押しつけられる事、欲しい物があっても兄が優先される家庭内。
諦めたくなくても諦めざるを得ない環境がそうさせたのかも知れないと話せば、話してくれてありがとうとお礼を言いながら、リヒターはリープリヒの手をとってその甲にキスを落とした。

「じゃあもう諦めなくていいように、僕がずっと見守ってる」
「そりゃどうも」
実際に自分がされている訳ではない筈なのに、無性に顔に熱が籠もってしまうのは背景に流れるBGMのせいだ。
そうでも言い訳をしないと、照れているこの事態に理由をつける事が出来ない。

 ブーケトスをして、ギルドメンバーの一人に狙ったように舞い降りる。
結婚式場を出れば、次々にスキルを覚えるポップアップが流れて、文字を追うだけでも胸焼けがしそうだった。

「フフフ……これでいいマホンいじりが出来そうだ」
「貴様最初からそれが狙いか!?」
斯くして、リープリヒはあらまほしの六人目のメンバーに加えられる事となり、今まで以上に手伝ってくれる人が増えて快適さが増していくのだった。
いくら毎日のように狩りをしている親友とは言え、あっさり結婚をOKしてしまえる事が既に道を外れかけている事は、まだ誰も気づいていない。
否―気づかないように必死で否定しているか、既に受け入れているかのどちらかなのかも知れないが。

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