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アラマホシーズンズ

 レベルを上げて、スキルを磨く。新しい術の熟練度が高まると、行動範囲も広がっていった。
メインシナリオを進めるついでに、その街限定のクエストを同時に受理すればそれだけ経験値もプラスされる。
街の片隅で泣いているNPCに声をかければ、まるで戦闘が始まるかのように別のマップへと転送がかかり、見知らぬ、でもどこか穏やかな空気に包まれた部屋へと舞い降りた。
此処は、迷子の少女が大事にしていた思い出の部屋、という設定なのだ。
向こうから攻撃してくるようなアクティブなモンスターこそいないが、何気なく背景としてとけ込んでいる柱やクッションは全てまやかし。壊して回って採集を続けなければ出る事すらままならないのだ。
しかし、それだけあって報酬が相当なものである事は確かだった。

「ソファのHP78,000ってさすがに丈夫すぎないか」
ターンを繰り返し、広範囲にトランプを突き刺してリープリヒは一言。

「それもそうだけど女の子の部屋を破壊するって一歩間違えたらゲスの極みなのでは」
リヒターも、得物を太刀へと切り替えて一閃。刃先から出る風圧で、ふわふわの愛らしい部屋は一変しておどろおどろしい景色へと変わっていく。その隙に次郎は異色の箇所をタッチして回る。
少女は何故迷子になっていたのか、得られるアイテムの中にヒントが隠されている。
地下室の鍵、手錠、頭上のスピーカー……悲しい真実が明るみになったその頃、少女の悲鳴がエリア全域に響き渡って強制的に元の街へと戻される。

「ありがとう、私に記憶をくれて」
泣き顔のスチルを画面に表示させながら、少女は思い出の宝箱と膨大な経験値を分け与える。
鳴り止まないレベルアップの音を引き連れて、リープリヒは宝箱の中から現れたミミックとの戦闘を開始した。

 クエストの消化を進めていく事、早7時間。転職可能レベルはとっくに超過し、試験も難なくクリア出来るであろう段階にまでなった事で、次郎は腹の虫が大きな悲鳴を上げている事に気がついた。

「一回飯にしたらいよいよジョブチェンチャレンジかね」
「アンタ料理とか出来なそうに見えるけど」
「出来らぁ!オムライスとかな!」
「それゲーム内の料理やないかい!」
一旦画面をスリープに切り替えて、リビングへと足を運ぶ。昨日の残りの白米にツナとマヨネーズを混ぜ込んで胃に詰めてしまえば関係ないとすら次郎は思っていた。

「戻ったぞ」
「早っ絶対ロクなもん食ってないっしょ。早速行く?」
リヒターの呼びかけに軽くジャンプで返事をする、準備は上々。
遠い未来ではかなり簡略化されたジョブチェンジも、この時はまだいくつかの試練を乗り越えなければならなかったのだ。

 淡い光に包まれて、精霊姫と再会する。祈りの息吹という名称のアイテムを手渡されるが、これは今回専用の一回限りで使えるコンティニューアイテムなのだ。
通常、一度敗北すれば近隣の街へと転送されてしまうが、30秒以内であればこれを使用してそのまま生存し続けられる便利な代物で、ここで使わずにとっておけば後々に露店でかなりの稼ぎに換えられる。

「目標!息吹所持状態でノーコンノーミスクリア!」
「アンタ普通に余裕で出来そうだけど」
「ところがどっこいそうでもない 何なら出来る方に懸ける?」
「じゃあ目標達成したら僕の願い叶えて貰おうっと」
願いって、と聞き返そうとすると場面が自動的に次のシーンへと移ってしまい、チャット欄が見えなくなってしまった。
制限時間内に500匹討伐のステージを終えて、休憩エリアへと戻ってきた次郎は即座に絶句した。

「育てたお礼に僕と結婚してよ」
「何言ってんだお前」
「いや変な意味じゃなくて!結婚用のスキルとか興味あるけど、リープリヒくらいにしか頼めないからさ」
変な意味ではない事は勿論分かっていた。問題はうっかりでも意識してしまった自分の心だと次郎は理解していた。

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