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アラマホシーズンズ

 一時間程して、全日程を終了した事を告げるアナウンスが校内中を遠く響く。すると、どこからともなく拍手が沸き起こり、これまでの二年間もそういう物だったのかと次郎も両手を合わせた。
展示していた写真はファイリングにまとめて教室の棚に収納していく。
舞台道具は―名残り惜しいが小さく折り畳んで袋に詰めよう。
昨日洗濯された衣装は、恐らく明日にでもコスチューム組が回収するだろうとそのままにしておく。
三十分もしない内に、どこへ行っていたのかクラスメイトが帰ってきて、片づけを手伝ってくれる。

「打ち上げは20時から近場のレストラン貸し切り予約してあるから!2位になったから担任がご馳走してくれるって」
「マジすか、やったな」
「本間も頑張ってたなー、お疲れ!」
お互いに労い合いながら片づけを済ませると、珍しく荒瀬からメールが届く。件名に淡々と内容を記して本分は空、というのが彼の癖だった。

「すまない、委員会の報告に行かないと」
「いいよいいよ、こっちやっとくから!」
教室の方はクラスメイトに任せて廊下に出ると、もう外はすっかり真っ暗の静寂に包まれている。
一つ下の教室へ足を運べば、既に他の委員は集まっていた。

 顧問の教師から、今年は例年よりも力が入って見えた事と、急な日程変更にも関わらず対応してくれた三年生への感謝が述べられて、ようやく次郎と荒瀬は肩の力を抜く事が出来た。

「―とは言え、本間。体調管理には以後気をつけるように」
「大丈夫です、僕が見とくんで」
「誰がお前に頼むかっての……先生、すみません。気をつけます」
最後にはしっかりとお叱りも受けて、実行委員は解散となった。
荒瀬は宣言通りのように廊下を歩いているので、忠犬のようで少し面白い。

 片づけを終えて、一旦家に帰る者、そのまま打ち上げに直行する者と事情はそれぞれだ。
次郎は近距離の部類に入るが、家に帰ればPCを起動しないでいる自信がないから出来る限り学校に残る事にした。
他にも教室にはいくつかのクラスメイトがおり、気分が落ち着かないせいか、誰かが持ってきたウノで遊んでいる。
次郎がそれに混じれば、近場に住んでいる筈の荒瀬もこっそりと参戦してきた。

「楽しかったけどさぁ、これで高校のBIGイベント全部終わったと思うとなんか切ないよね」
女生徒が6のカードを置きながら吐き捨てる。
二年次で修学旅行を済ませてしまうからこそ、三年生になると学園祭くらいしか盛り上がる事がないのは次郎も先程後悔したばかりであった。
続けて、出す札のなかった男子は、山の中から一枚引きながらそっと口を開く。
「2位は惜しかったけど、結構色んな人に誉められて気分良かったしな」
静かに噛みしめるように、残った生徒だけでウノが進んでいく。

「……俺も、ちゃんと参加して良かった」
何となく自分の番になったら一言呟く事が暗黙の了解となっており、次郎も従って呟く。すると左隣に座った荒瀬が、その上から同じ色のリターンを置いて一言。

「僕は仲良くなりたかった子と話せたから、悪くなかったかな」
「荒瀬にも好きな奴、いたんだな」
すぐ様、次郎もその上に別のカラーのリターンを投げつけて、恐らく全員が抱いたであろう疑問を口にする。
「まぁそうなるのかも」
余裕そうな表情で、荒瀬は9のカードをそっと置く。それから呟くようにウノを宣言した。
たかがクラスメイトが青春を謳歌しただけで、それを確認したに過ぎない。
だからこそ、他のクラスメイトは荒瀬の珍しい様子にはやし立てるように盛り上がっている。
しかし、次郎の気分は何故か彼と出会った今までの中で一番最低の底まで落ちていくのだった。
ちなみに肝心な戦績は荒瀬が一抜け、次郎が最下位と相成った。

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