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アラマホシーズンズ

 一日目がどだばた続きだったせいか、二日目の朝は穏やかに過ぎていく。
心なしか教室内もホッとした様子で、昨日の王子様扱いが嘘のように荒瀬も普通の人に逆戻りしていた。

「今日はゆっくり過ごせそうで良かったね。ねぇ、本間君さえ良かったら今日他のクラス見て回らない?」
「トキタさえ良ければ。喜んで」
断る理由もないからとOKを出せば嬉しそうに小さくガッツポーズをする。
あの一件以降、トキタは妙に本間に懐いたらしい。理由を尋ねれば、読書好きの彼にとっては次郎の名字は愛着が沸いてしまうものだとか。

「本と言えば、荒瀬君の家も本屋さんなんだってね。知ってた?」
「いや―アイツにはあまり興味がないもんで」
「そっか。そうそう!二年にメイドカフェがあるらしいんだけど、そこ最初に行っても良いかな」
自分の行きたい場所を提示しつつ、相手の出方を出る。教師の好きそうな、優等生らしい態度だ。
メイドにはそこまで関わりがないと思っていたが、存外オタク趣味というか、アキバ系と思われていたのかも知れないと思って次郎は少しげんなりした。

 メイドカフェでパーティゲームをしこたま遊んだ後、一度トキタと解散して校庭へと出てみる。
するとコスプレや普段見かける事のない大人の姿が多く、まるであのオンラインゲームをログインしている時のようだと思った。
大人数で一緒にいると消極的になってしまいがちな次郎ではあるが、こうしてたくさんの人がいる光景を見ている分には悪くない。
校門の前で受付をしていてくれた同級生に差し入れを手渡して交代すれば、次から次へと人が押し寄せてくるではないか。

(知らなかった。うちって結構人気のある学校だったんだな)
これまで学園祭に力を入れずにきていた自分が恨めしい。最後だからなのだろうか、余計に感傷的になってしまう。
それにしても、もう一人くる筈の受付は何をしているのか。
片手で携帯電話を使ってメールを送れば、すぐ行くの四文字が分を跨がずに返ってきた。

 「面目ない。後輩に捕まってた」
「さりげなくモテ自慢をするな。隣座れよ」
「どうも。顔の良さを分けてやりたいもんだ」
わざとらしく荒瀬がため息をつくが次郎としては是非ともそうして欲しいものだと思った。調子に乗らせるだけだろうから、全く口に出すつもりはないが。
午後三時を回ると、人の入りも流石に落ち着いてくるようになってきた。
担任が代わってくれるとやってきた為、有り難くそうさせて貰う事にした。

「じゃあ、俺トキタと回るんで」
「何の宣言なんだか……それじゃ」
顔も見合わせないまま、荒瀬と正反対の方向に歩いていく。
誰かと回るんだろうか。それとも、教室で女子からちやほやされるんだろうか。
いずれにせよ、何だかむしゃくしゃするというか、面白くない気分だった。

 午後五時半にもなると、講堂へ人が押し寄せる。
いよいよ、二日間の短い戦いに終止符を打つ時がやってきたからだ。

『―それでは発表します。第三十二回学校祭優秀賞は―』
どきどきと胸が高鳴って、照明を当てられている訳でもないのに熱くなってくる。
しかし、次郎の期待は儚くも叶わず、結果は惜しくも2位止まりだった。
それでも、悲しい結果ではなかった。それぞれに有意義な、実りある文化祭だった。
発表の後は、後夜祭と証した残りの時間を思い思いに過ごすのが定番で、これまでの二年間であったなら次郎はまっすぐに帰ってしまっていた。

 特に行きたい場所もなくなった次郎は、教室で一人展示の案内をする事になった。
とは言え、こんな最後の最後に来るような奇特な人物もそうそういない。
ふと、窓辺に立って外の中庭を眺めていると、一際目立つ美男美女に目が留まった。
(荒瀬、ウララさんと一緒で嬉しそうじゃないか……良かったな)

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