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アラマホシーズンズ

 リープリヒ嬢の初陣は、リヒターの見守る前でとなった。
キャラクターの制作を完了してチュートリアルに入るよりも早く、相手の方からパーティー申請が届いた。
本来であればチュートリアル完了時のレベル5を越えなければパーティーの存在すら知らずにストーリーが進む筈だが、向こうからであれば組む事が出来るのだ。

「そんな急がんでも逃げんだろうに」
「いやもう絶対誰も渡さないって思ったら慌てちゃったんだぜ」
先ほどまで白熱した議論をしていた娘のような存在なのだ。気になってしまうのも頷ける。
時刻は早くも22時を過ぎようとしており、昨日は兄が帰宅しなかったのをいい事に続ける事が出来たが、今日も同じ事が出来るとは限らない。
いけるところまで付き合う、そう言ってくれた彼の恩に報いるためにも、次郎はチュートリアルをスキップしてプレイを始める事にした。

「おさげロールは最THE高」
「案外モノクロに合ってて良かった さんきゅな」
「その見た目でその口調はないわ」
満面の笑みで親指をたてるリヒターが、次郎が喋った瞬間その親指を地面へと向ける。
このキャラをプレイする時は無言にしようかとも思ったが、慣れてくれれば良いだけの話なので良しとする事にした。

「でもコイツはコイツでトランプ買わないといけないからやっぱどのキャラも消耗品はあるんだな」
「隠し技で作れる“経理マン”のジョブだとコイン投げつけて戦うらしいけど」
「ギルメンのあの人が使ってるやつ? だからポチ沢沼してたのか」
「そそ。お金はさすがに大事にしたいと思う僕は」
「とか言ってリヒターがカンストしたら次はそれをとか思ってるんじゃないのか?」
「黙秘します」
何だかんだと話題に出す割には妙に詳しそうだと思い藪をつついてみれば蛇が出てきた。ひと稼ぎするだけであんなに楽しそうにしていたのだから、天職になりえるかも知れない。

 イカサマ師は一定のレベルになると、ディーラーに転職出来るようになる。するとトランプを使った技が増えて、一世一代の大博打スキルも出せるらしい。

「アンタは負け試合なんかする前から諦めてそうだから、その技習得しなさそうだけど」
「2分の1の確率で相手か自分のどちらかがやられるとか想像するだけでムリだな」
「勿体ないでやんの」
初めはなかなかコツの掴めなかった投げ方も、徐々にトランプが敵に当たるようになると自信に繋がる。

「マホンの時はさ、何でずっとプレイ続けてたん?」
そんな中、ふとリヒターが質問をしてきった。次郎は、言うべきかどうか迷ってから、正直に打ち明けてみる事にする。
「前にリアイベで限定シリアルのガーディアンを配布した事があって マホンに似合うと思っててさ 装備してみたかったんだよな」
照れ隠しにモンスターにトランプを三枚投げつけて、軽くターンをさせる。するとリープリヒの髪は綺麗に円を描くようになびいた。

「カンストしちゃったし 手に入れようと努力もしてなかったんだけどな 無理だろうなって分かってたし」
「そーかそーか!じゃあお兄さんが慰めてやろう!」
「いやお前同い年だろ!やめろ撫でアクションすんな!」
リヒターがリープリヒに抱きつくように迫り、頭を強引に撫でつける。端から見れば怪しい光景だが、中はむさ苦しい男子高校生だ。

 幸か不幸か、兄も繁忙期に突入しているらしく、今日もPCを交代する必要がなくなったと母が部屋に伝えにきた。
あまり遅くなるんじゃないと何度も説得され、一度は布団に入る素振りを見せる次郎だったが、せっかく今一番楽しい時なのだ。
リヒターがログアウトした後も、少しでも近づけておきたいとリープリヒのレベル上げに勤しむ事にした。
その日、思わぬしっぺ返しを食らう事になるとも知らずに。

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