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アラマホシーズンズ

 睡眠時間は全くと言っていいほどの少なさであるにも関わらず、次郎は朝から機嫌が良かった。
先日黄色く染めた後頭部を翌日速攻でばっさり切り落としてから投稿した日よりも断然今日の方がそわそわしているのではないだろうか。
件の看板はすっかり準備中の立て札として生まれ変わり、舞台から教室までどのように設営を運び込むかのシチュエーションをしているさなかでも頬がゆるんでしまう。
クラスメイトはそんな次郎を見て、“荒瀬の言葉がそんなに胸に響いていたのか”と疑念を新たにしていた。

「台車は手配して貰ったから、柱っぽいやつとか重いのは全部乗っけて。本当にデカいヤツは俺運ぶから、細々としたの頼んでもいいか」
そう尋ねれば、展示班は快く了承してくれる。面倒事や雑用を押しつける時は自分もやる事を前提にすれば引き受けて貰えるというのが、担任からのアドバイスだった。
本日は金曜日。念には念を入れてリハーサルだ。
荒瀬に至っては、練習着の上から制服のジャケットを羽織っており、授業中でも教室内で一人、異色の雰囲気を放っていた。

「じゃあ次の問題を前で解くのは―王子」
「荒瀬です。先生」
そんな状態だからだろうか。すっかり教師も彼にニックネームをつけ、クラス中の笑いを誘った。

 実行委員の集まりも、滞りなく進んでいく。
本来であれば、日程の変更など問題が起きてもおかしくはないような事態だが、次郎を初めとする三年次達が黙って受け入れているのだ。下の学年も飲み込むより他なかったらしい。

「―では何かあったら各自速やかに連絡するように。解散」
んの字を聞いた瞬間。次郎は鞄を持って颯爽と立ち上がる。
家に帰って続きをしなければと焦る気持ちが先走り、階段を一つ飛ばしで駆け下りる。
追走するように、荒瀬も背後から来ているようだ。
居残りの生徒が増えると、自転車置き場もそれだけ混雑する。実行委員達がくる前に、急いで乗ってしまおうという魂胆だ。

 家に着いて夕食もそこそこにログインすると、一足先にリヒターがログインをしていた。
どうやら採集をしていたらしい。昨日の続きだと言えば、そそくさとこちらへ近づいてきた。

「リープリヒってどう?」
「いきなりなんだ サブの名前か?」
聞けば、自信満々の表情で頷く。彼の方が後に始めた筈なのに、随分とキャラクターの動かし方を熟知している様子だ。
見覚えのないカタカナの文字列にどこかの国の言葉かと首を傾げれるマホンに、リヒターは顔を背ける。

「教える訳ないじゃん。まぁ僕がいつもアンタに思っている事ってとこかな」
検索窓を開いたまま、次郎は次に切り返す言葉を考える。
(ぐぐられるって分かってて何でそういう事を……)
そこに出てきた意味は、確かに女の子につけるなら相応しい名前ではあった。

「リヒターと発音似てるけど まぁいっか」
名前を決定したのなら、次は容姿を設定する必要がある。
新しく作るには、マホンの状態から一度ログアウトしなければならない。だからこそ、今こうして先に決めておかなければならないのだ。

「モノトーンの服装にしたいんだよな どう思う?」
女子の初期装備一覧を見ながら、適当にいくつかモノクロの物をピックアップする。

「それなら僕は断然おさげロールヘアがいいです先生!!」
「高飛車そうな気が 前髪パッツンにすればアリか」
メモを取りながら、次郎は再び画面をスクロールしていく。
セーラー襟のついた黒のケープに、濃淡のコントラストがはっきりとしたストライプのワンピース。銀の装飾の一部に目の色と同じ紫色のクリスタルを追加する。
無課金であれば、この程度が限界だろうか。リヒターに口頭で伝えれば、足下の案が飛び出した。
可愛いという意味に相応しくなるように、二人の男が娘を作っていくのだった。

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