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アラマホシーズンズ

 学園祭当日もいよいよ今週末にさしかかると、舞台に上がる表の顔は賑わい裏方も釣られて気合いが入る。
衣装の制作を終えたチームは早々に一仕事完了した打ち上げにいったようだが、本番まで何があるかは分からないと放課後まで付き合って居残りをしてくれていた。
何もかもが順風満帆であったからこそ、トラブルは付き物なのだろうか。

「―文化祭日程の、変更?」
「そう。二日目に講堂で舞台をやると長丁場になるでしょう?だから近隣住民から苦情がくる可能性があってね。一日目と二日目で演目をそれぞれ分ける事になったんですよ」
HRの終わりしな、担任から荒瀬と二人で呼び出されたと思いきや次郎は衝撃の事実を突きつけられた。
予定通りであれば、二人の属するクラスは二日目のサブメイン。いわゆる大トリの一つ前という安パイな位置であった筈なのだ。
それが何の因果か、一日目のトップバッターにされてしまっていた。
朝一番の発表では、他のクラスだって自分たちの準備をするに決まっている。自分たちだって教室の展示方法を替える必要が出てくる。
ろくに集客もないまま披露させられる荒瀬たちがあんまりではないか。
次郎は睨みつける事で、恐ろしくクジ運がない担任を恨んだ。

 「ちょっと待ってください。それなら人気のあったクラスが優勝というのは」
「二日間を総合して、最終日の最後に発表する形となるだろうね」
「それでは、一日目が不利じゃないですか」
「そうならないように完成度を上げたいよね」
そこまで担任に食ってかかろうとした所で、荒瀬が押し黙っている事にきがついた。
贔屓目に見ても彼らの完成度は十分な物であった筈だが、それでも一日ずれるのは堪えるのだろうか。

 教室に戻り、休み時間にその事を告げれば教室内は動揺に包まれた。
委員を責めたって仕方がないと言いつつも、展示を変えるとなると今まで計画してきた者にとっては無駄だと言われる事と同じなのだから。

「一日目に教室で展示していた物を本番で着るから意味があったんじゃないか。そう言ったのは本間君ですよね」
「……言ったかも知れません」
自分の行っていた事を一度白紙に戻されて怒らない人などほとんどいない。
諦めが肝心だと思っている自分でも、諦めて欲しいと頼むのは締め付けられるような思いがした。
それでも次郎が頭を下げ続ける事で、何とか場が納まりかけてきた、その時だ。

「舞台が終わってから大道具を教室に運び込んで配置したら、劇の中に来たみたいな感じになるんじゃん」
黒板の前にいたもう一人の実行委員こと、荒瀬がようやく重い口を開いた。

 「教室の展示で申請は通っているんだから、それは今更出来ませんでしたって言うのは僕が許せない。だったら、前の案も生かしながらもっと凄いのが出来るように考える方向でいこう。ここで諦める方が勿体ないし」
誰が聞いても嫌な顔をしないように、慎重に言葉を選んでいるように次郎は感じた。
この短時間で、荒瀬の言うもっと凄いというような物が出来るとも思えなかったが、少なくとも教室の士気は取り戻せたようだ。

「―だからアンタも、へこんでないで計画練りな。実行委員」
「う、うるせぇ、お前もだろ」
そっぽを向きながら、次郎は展示班の元へ行く。その背中を、ほっとため息混じりに担任は見ていた。

 土壇場で変更となったクラスの出し物も、かえって追い風となったようで。
まず朝から演目終了30分までは“舞台に急げ”とだけ看板を掲げておき、演技が終わればそっこうでメイキングを展示すると、そのまま講堂に居た人が来てくれるのではという形となった。
二日目に余裕があれば、教室で小芝居を見せる事だって出来る、そんな荒瀬の言葉に励まされ、次郎達も再び前を見る事にしたのだ。

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