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アラマホシーズンズ

 ゲームのプレイ方法は簡単だ。基本的は移動はマウスで、戦闘などのアクションはキーボードをフルに使っての操作を要する。
スペルという特定の単語を入力する事で、ジョブに応じたスキルを発動する。例えば、前衛タイプのプロレスラーを選択している場合は、「voltage」と打ち込めば一定時間体力が上がる、といった様子だ。
かつて次郎が魔術師を選んでいたのは、ひとえにこのジョブがひたすら長文のスペルを入力しなければならなかったから。
スペルの長さはそれだけ強さに比例する。敵の攻撃などで妨害されればなかなか一度に成功させるのは難しい。だからこそ、颯爽と現れタイピングを素早く上級魔法を出せば格好良いと思っていたのだ。
大人になった今なら、その発想こそが稚拙だと言えるのだが。

「たかが二ヶ月そこらじゃ大してレベルも上げられないだろうし、せいぜい“聖なる乙女の槍”くらいまでしか覚えられないだろさね」
文句を言いながらも、結局のところは“魔術師見習い”を選択した。
実に数年ぶりに見る初期装備と一段階めのジョブ。
レベルを上げて特定のスキルをマスターしなければ、上の段階には進めない。つまり、引退前に元通りとはいくまい。
それも理解していながら、見た目までもを限りなく以前に近づけてしまうのは、一体何の意地なのだろうか。
新しく考えたところで二ヶ月の命だから愛着を沸かせないためなのか。

スタート前に、一通りの操作をチェックする。
装備のウインドウを開いて、空欄になったままのガーディアンをダブルクリック。
ここに登録がされていれば、盾や杖・頭や靴などの他に、魔力などを高めてくれるペットのような存在を連れて歩けるのだ。
次郎の所持アイテム一覧の中には、一体だけだがガーディアンがいる。
初心者の状態にはあまりにも不釣り合いにステータスの良いレアリティでありながらも、確かにそこに鎮座していた。

(これが、俺とあいつを繋ぐ唯一の絆―なんてな)
そんな事を考えながら待っていると、レベルが足りませんと無機質なメッセージが流れて、まだ装備する事が出来ない事実に落胆する。
チュートリアルを終わらせれば到達できそうな5レベルなら、まぁひと狩りしてから寝るのも悪くないと次郎は思った。

 このガーディアンは、滅多にない羽根の生えた見た目をしている。
というのも、このゲーム唯一の所謂リアルイベントで抽選100名限定に配布された希少価値の極めて高いものだったのだ。
オークションでもプレミアがついており、貧乏学生だった次郎にはとてもじゃないが手の出せない代物である事は勿論。
それを、なぜ再登録した今になって所持しているのか。

それは、このゲームをプレイしていて「一番楽しい」と掛け値なしに、贔屓目なしに断言出ていたあの頃。
いつだって自分の側にいて冒険をした親友がくれた、最初で最後のプレゼントだったから。

貰った直後、完全に疎遠になってしまった今になっては、お礼を直接言う事など夢のまた夢なのだが。
せめてこのゲームの最後を見届ける時に装備している事で餞にならないだろうか、そんな気持ちがあったのだ。

「ごめんな……前も、今も」
その懺悔は、誰に向けたものだったのか。

チュートエリアの専用マップへと足を動かして、次郎はふと帰宅してから
着けっぱなしにしていた腕時計を外した。
こんな時くらいは、時間を忘れてゆっくりしたい。
どうせ一人暮らしなのだからとスピーカーに切り替えれば、もう部屋中が冒険まみれだ。
アップテンポで、どこかのどかなBGMに耳を澄ませて、次郎は今度こそ画面へと向き直る。
モニターには、自分のキャラクターの元に旅への招待状と称してメールが届く場面が展開されていた。

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あきゅろす。
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