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アラマホシーズンズ

 トキタの考えたストーリーのあらすじは、ひょんなきっかけで男子高校生と幸福の王子が入れ替わり、少年は他者への思いやりを学び、王子は自己犠牲では大切な人が悲しむ事もあるのだと理解するようになるという物だった。
披露する時間は約8分。2分間ごとに場面を切り替えられるように綿密に計算されているらしい。
高校三年生の最後を彩るに相応しくなる為に、クラスの誰もが燃えていた。勿論、顔には出さないが次郎もそれなりに与えられた役割はこなそうと決意している。

 荒瀬は主演。つまり、二面性のある難しい役どころとなる訳だが、肝心な演技の程はいささか不安だったようで、教室内でもウララに質問している姿をよく見かけるようになった。

「発声も問題ないと思うけどな。いつも本間君と話してる時みたいにガッといけばいいんじゃないかな」
「いや……あれはちょっと特殊っていうか」
「例えば客席全員本間君だと思いこんでみるとか?」
「全部のセリフが怒鳴り声になってもいいなら」
だめだよという笑い声がすれば、様子を伺っていた他の生徒も和んでいるかのような目をする。
さながら少女マンガのワンシーンでも見せられている気分だ。
聞き耳をたてていれば勝手に人の名前を出してくれる。

(あの荒瀬が自信なさそうにしているなんて意外だな。苦手な物なんて俺くらいしかないかと思ってたが)
自分で考えてから少し悲しくなって、次郎は気を紛らわす為に図面を取り出す。
舞台の右と左で現代とファンタジーの世界を2つ展開し、かつ次の演目に切り替えやすい配置は裏方チームで考えた。
次郎はあまり丁寧な作業が得意ではない。だからこそ大道具の担当といってもキャストの雑務がほとんどだ。
先ほども、コスチューム部隊に備品調達を任されひとっ走りしてきたばかりだった。
あまり見ても分からない図面を眺めていると眠くなってきた。
大きなあくびをしかけたその時、教室のすみでわっと歓声があがった。

 何が起きたのだと目線を向ければ、ウララとトキタに手招きされる。
貴重な休み時間を奪ってくれるのだからさぞ素晴らしい事なんだろうなと心の中で悪態をつきながらそちらへと足を運べば、そこには仰々しい衣装に身を包んだ荒瀬が立っていた。
純白の布地に金の装飾がまばゆい服は、まさしく王子のようで。
不釣り合いなニット帽を外しているせいかいくらか乱れた髪を、横からさっと整えられており、それを好きにさせている姿は既に役に入り込んでいるらしい。
伏し目がちな表情が、どことなく、何かを彷彿とさせると次郎は思った。

(―なんか、リヒターに似てるな)
まさか、髪の色すら異なるのだから、それは次郎の勘違いでしかないのだが。
しかし、服装のシックさが引き立たせるのか、妙に大人びて見え、テレビで活躍する俳優にも引けを取らないように感じる。

「ま、孫にも衣装って言うし。悪くないと思う」
流石、コスチューム部隊が腕によりをかけた自信作とのけぞるだけの出来である。
下手なコメントを言えば避難が集中すると思った次郎は、気の利いた言葉も言えずに誤魔化してしまう。
するとクラスの反応は、一昔前のライトノベルの主人公よろしく、やれやれといったため息だった。

「こういう時くらい素直に誉めたっていいのにねぇ」
「まぁ本間君が普通に素直になる訳ないか」
当人は完全に置いてけぼりで、仕方がないという雰囲気にさせられる。

「公開が楽しみ―ですね?」
「そこで疑問系にしちゃうあたりが残念だな、ホンマアホ」
「折角人が思い切って誉めようとしたのに……しかも今俺の名字別の意味で使わなかったか?」
「さぁな」
流石に厚着のせいか首筋にうっすらと汗をかきながら、荒瀬はそっぽを向く。
その横顔は、不思議といつもよりも機嫌が良さそうに次郎は感じた。

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