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アラマホシーズンズ

 その担任の言葉を裏付けるように、嫌な予感は当たる。
朝、登校してきた次郎は正門前の掲示板に張り出された告知を何気なく眺めて、二度見して、それから手にしていた鞄をずり落とした。
そこには、コピー用紙一枚にこんな文字列が列挙されていたからだ。

【今年度文化祭実行委員
委員長 荒瀬理人  3年次リーダー 本間次郎】

その下には、もちろん各学年から自薦他薦で選ばれたであろう見知らぬ名前が続く。
一番上の二行だけが知っている名前になるが、絶対にここに記されていて欲しくない二つでもあった。
何故なら、次郎たちのクラスでは未だ学園祭の話は挙がっていない。
委員を決めるような会議など一回もなかった筈だ。それを証明するように、クラスの出し物の欄はご丁寧に未定と載っている。
つまりこれは、誰かが独断専行で決定してしまった事という言わずと知れた証明だ。
誰か、それはもうたった一人しか思い当たらない。

「なんなんだよコレ!」
不意に、自分の視界―真横から誰かの腕が伸びて、そのまま掲示板を強く叩いた。
ぎくりと背筋を振るわせながら後ろを確認すれば、浅葱色の髪が目に入る。
全くの偶然とはいえ、登校の時間までも被ってしまったようだ。荒瀬は次郎を一瞥してから、さもストーカーの被害者のように不服な表情を浮かべた。
口を開かれる前に、次郎から提案する。

「取りあえず一次休戦。俺もお前も話聞きたいのは同じだろ」
「仕方ねぇ」
舌打ちを一つして、不本意そうに荒瀬がついてくる。
職員室へと進む足取りは、どこか告白にいく乙女のように緊張していた。

 いつも騒々しい二人が口を真一文字に閉ざして廊下を闊歩する姿はさぞ異様だろう。
ひそひとと噂があがりながら先にいた生徒たちが避けていく。
その光景は、さながらアニメ映画で猫のバスに乗っていた時のシーンのようだ。
職員室のドアを開けると、我先にと荒瀬が挨拶もなしに横入りした。

「オイ。掲示板のアレ」
「おはよう荒瀬君。職員室に入る時は“失礼します”言えるかな?」
「シ・ツ・レ・イ・シ・マ・ス」
「良くできました」
舌打ちをしてから荒瀬は長い長いため息をこぼす。今度は自分の番かと次郎も口を開いた。

「先生、そんな事よりコイツだけじゃなくてよりにもよってなんで俺まで」
次郎も少し語気を強めたつもりではあったが、一向に聞く気がしない。
「えー?だって本間君暇って言ってたじゃない」
「言ってない!……です」
あの荒瀬が押され気味になる程担任は流暢に二人の会話をいなしていく。
飄々としたその態度では何時までも埒があかないと思ったのか、荒瀬はわざとらしく姿勢を伸ばして真面目なふりをするからとでも言うように先を急いだ。

「いやね、だって高校生活最後くらい、仲良くして欲しいもんなんですよ。僕としてはね」
咳払い一つをして、それから担任は続ける。成る程、先日言っていた良いニュースというのはこれの事だったのかと次郎は腑に落ちた。

(やっぱり案の定全然良くなかったから逆に気づかなかった……)
がっくりとうなだれると、荒瀬と目が合う。自分はまだ仕方がないと諦めもつくが、此奴はまとめ役を無理矢理任されているのだ。
この二人でジャンケンでもして負けたから押しつけられているのならまだしも、勝手に決められると責任が重い。次郎は最初で最後の同情を荒瀬に抱いた。
次の瞬間舌打ちされたせいで、その気持ちも消滅したが。

「―というわけで、今日の終わりにクラスの出し物決めるから覚悟しておくように」
気づけば結構な時間が経ってしまっていた。ほかの教師からもやんわりと退出を勧められる。
極めて事務的に行えば、すぐに終わってくれるだろうと自分に言い聞かせて、抵抗する事を次郎は諦めた。

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