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アラマホシーズンズ

 そうこうしている内に、季節は巡って冬がくる。
三年生にもなれば進路相談で周囲は沸き立つが、次郎は進みたい職業も目処もたっていた為、大手を振ってゲームに勤しむ事にした。
そんな体たらくでいたから、罰が当たったのだろうか。
クラス編成が変わって、次郎は絶句する事となった。
4月になって自分の新たな教室へと一歩踏み出した瞬間、ある違和感を覚えた。
基本的なクラスメイトは二年次とほぼほぼ変わりがない筈。しかし、何かがおかしい。
否、その正体にはもうとっくに気がついていた。
というか、ドアを開けてすぐ、向こうの方から自分の目の前にそれは立ちふさがったのだ。

「あ、荒瀬、なんでお前がここに―」
「親の意向で文系にシフトする事になった」
次郎から口を開いたのはこれが初だ。しかし、そんな事は至極どうでも良いといった様子で荒瀬は長い長いため息を吐いた。

「これから一年間、アンタの辛気くさい面を拝まないといけないなんて」
「知ってるか?以外と高3になってから転校する奴って多いらしいぞ」
言葉の端々に暗に出て行けとお互いに火花を散らしながら、しかし一歩も引く気を見せない。
せっかくクラスメイトになったというのに、握手の一つも交わさず睨み合おうとは。
そんな二人の険悪な様子を、担任教諭は黙って見つめていた。

 同じクラスになった以上。今までよりも数倍、物理的な距離が近く感じる。事実、その気はなくとも常に次郎の視界のどこかにあのニット帽がちらついていた。
例えば、適当に友人同士で組んでレポートを制作しようとすれば、あぶれた二人は必然のようにセットにさせられる。
体育の時間にもなれば、鬼の形相でラリーを繰り返す姿が見られたとか何とか。
わざと近づけられているのでは、と思うほどに接点は増え、その度にボキャブラリー豊富に罵られる。

(荒瀬め……このまま俺がドMにでもなったらどうしてくれるんだ)
生憎とその予定は一切ないが、荒瀬と会話すると売り言葉に買い言葉が続く。
自分のどこにそんな腹黒い次郎が潜んでいたのかと思うほど、簡単に引き金を引けてしまう事が恐ろしい。

 「全く本間はホンマ素直じゃないなぁ。あっねぇコレちょっとギャグっぽくない!?」
担任に雑用を押しつけられたかと思えば、開口一番に出てきたのは感謝ではなくまた荒瀬との事だった。
彼はどうやら、彼奴に対して次郎がつっけんどんな態度をとっているように見えているらしく、こうして度々やっかいなお説教を述べるのだった。

「俺からしてみれば荒瀬の方がツンツンに見えますが」
「そう?新学期の時だって、同じクラスになれて嬉しい!って言ってたのに?」
「……はぁ?あれのどこが?」
失礼ながら、この教師は節穴なのではないかと次郎は思った。
でも確かに、思い返してみればあの時の荒瀬は存在を否定するまでの事は言っていなかったような気がしてくる。

(いやいや!そんでも俺、辛気くさい顔って言われてるからな?)
気がするだけだったようだ。一体この国のどこに嬉しさの照れ隠しで顔をとやかく言われても納得出来る人がいると言うのだ。

 この担任、信用ならないなと次郎が感じたそれは、一ヶ月もしない内に現実の問題となって目の前に立ちふさがる事になる。

「本間さ、帰宅部の上に委員会にも参加してないんだったか」
「そうっすね。一年の時は学級委員やりましたが」
「過去は過去だ。せっかくの高校三年間で、学校にいい思い出がないのは勿体ないと思わないか!?」
「部活や委員に出てないとろくな思い出が出来ないと思うのもどうかと……」
「うーんそれを言われると何も言い返せない!でもま、もうちょっとしたらいいニュースを伝えられると思うから、楽しみに待っててくれよな!」

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あきゅろす。
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