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アラマホシーズンズ

 先日フレンドになったばかりのプレイヤー3名から、ギルドを設立してみてはどうかと提案された。
詳しく聞けば、カンスト状態でギルドを開いていないのはマホンくらいなものだと妙な説得をしてくる。
確かに、次郎は中級の頃ギルドに入る権利を与えられてからはずっと憧れていた事ではあった。
仲間を助け尊敬されるマスター、闇の魔術師として穏やかな余生を過ごす―それは、孤独な冒険の中では絶対に知る事もなかっただろうから。
今までだってフレンドが数人出来た事はあれど、皆すぐに引退してしまっており、ギルドの話をする隙は見つけられずにいた。
だからこそ、これはまさしく渡りに船だった。

「ギルド名はどうします?可愛いの希望で」
「平仮名だと変換しなくていいから楽じゃないかね」
「面倒だしマスター決めていいよ〜」
3人は既に長年共にしているのかテンポがかみ合っているように見える。
自分もいつか、彼らとそうなれるのだろうかと思えば嫌でも気持ちが浮つく。
リヒターも頷いていてくれる。だからそれを、素直に言葉にする事にした。

「あらまほし なんていいかなと思うんだが」
一瞬、少人数ながらも賑わっていたパーティーチャットがしん、と静まりかえって、失敗したかと焦りが生じる。

「外国語?ちょっとボクおばかさんだから説明希望」
「ありたい。ある事が望ましい。理想的である、といった意味のようだな……」
「テツさんぐぐるの早っ!クッソこの僕が早さで敗北するとは!」
「リヒター大丈夫 俺ちゃんとお前のタイピングはスゴいと思ってる」
「っマホン……!」
わざとらしく泣くような科白の後、抱きつくようなアクションをリヒターがとって、ほかのメンバーは白けた目で見守っている。
短期間のうちにここまで打ち解けられる雰囲気が、マホンにとっての“あらまほし”だ。
今この瞬間が、このゲームの中で一番理想の叶っている瞬間だと次郎は思っている。
だから、これから始める人にとってそんな居場所になるギルドにしたいと願った。
そんな気持ちを知っている訳ではないが、不思議と全員が賛成してくれた。

 そうして始まったギルドだが、基本は変わらずリヒターとの二人狩りが多かった。
あの3人は3人でバランスが取れており、特別な機会でもない限りは分かれて行動した方がお互いに効率が良かったのだ。

「しまった。回復アイテム切れたから料理してもオケ?」
「オッケー ここらへんで採集してからするならマリンカクテルとかか」
ちなみに本日の狩りは浜辺である。辺りを適当にクリックしていると、リヒターはやれやれというように頭を振った。

「道で拾ったモノで料理するなんて。さてはマホマホ、料理下手?」
「ほう そんな事いうならリヒリヒはすげーの作れるんだな」
「この僕はポチ沢の所で拾っておいたポチ沢ジュースに挑戦するぜよ」
「クソそう」
結果は案の定失敗であったが、次郎の料理下手は案外、未来で当たらずも遠からずである事実は否めない。
この時の会話を一人暮らし開始前に少しでも思い出していれば、少なくとも炊飯器頼みの食事は少なくなっていく筈だ。

だだっ広い浜辺を歩いていると、砂がさらさらと流れる効果音が鳴がれて心地がよい。
採集を続けるリヒターが少しでもやりやすいように、マホンとしては周囲のモンスターを撃退して回るに限る。
草属性の範囲魔法・蔦で敵を一網打尽にすれば、気持ちが良いくらいに画面がすっきりする。
そのせいか、アイテムボックスには無駄に貝殻のモンスターがドロップする貝柱ばかりが集まって、ギルドチャットに何気なく愚痴ると軽口が飛んでくる。
遠くのマップにいてもすぐそばいるような感覚は初めてで、くすぐったいような気持ちにさせられた。

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