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アラマホシーズンズ

 「オイ、廊下でニヤニヤしてんなキモい」
「こっちは大事な考え事してるんだ話しかけるな」
相も変わらず、荒瀬は一定の距離を保って次郎を見つけだす。隠れるつもりはないが、わざわざ話しかける苦労は甚だ疑問だ。
しかしながら、家に帰ればリヒターと冒険の旅に出られる喜びは、何者にも代え難い喜びがあった。
だからこそ、荒瀬にいくらストレスを追加されようとその日のうちに解消させる事だって出来たのだ。

 難なく一次転職をして、プロレス部員のジョブからモノノフへと華麗に羽ばたいたリヒターは拳ではなく得物として剣を愛用するようになった。

「砥石の消費が激しすぎるんだけど。このままじゃコインがガン減りする」
「じゃあここらで一回ドカ稼ぎしておく?」
「稼ぐって言っても仕事があるワケじゃないよな」
怪訝そうな言葉に次郎は慌てて説明する。
このゲームではアイテムをショップで売却する以外に、個人が露店を開いて好きな金額を設定する事が可能なのだ。
勿論、べらぼうなぼったくり価格にしてしまえばそうそう売れる事も難しい。しかし、それがそこそこのレアアイテムならどうだろうか。
売っている情報を全体チャットで告知するだけで、瞬く間に大ヒット間違いなしだ。

「言ってもレアなアイテムって、上級ゾーンで採集する以外に思いつかない」
「そんな時こそ 上級パーティーの狩りに相乗りしてレアアイテム集めを手伝って貰うのさ」
「な、なるほど?」
首を傾げるリヒターをよそに、次郎はパーティー募集の掲示板ウィンドウを開く。
その中でも比較的入りやすそうな“ポチ沢コラボPT 基本無言”をクリックした。

 ポチ沢というのは人気の深夜アニメで、半年ほど前からコラボと称して限定のエリアが出現している。出てくるモンスターはポチ沢オンリー。
可愛らしい犬の見た目とは裏腹に、人なつっこく抱きつくような攻撃を繰り出してくるのが特徴だ。
HPが37万と壊れた設定をされている分、撃破完了した時の報酬は相当にオイシイ。たいていはHPの10分の1程度のコインだが、一定の確率でポチ沢Tシャツという防具がドロップされる事があるのだ。
駄目でも稼げるし、防具の手に入りにくいこのゲームでは“ポチT”と言えば持っているだけで一目おかれるような代物だった。

「ポチ沢を斬って斬ってきりまくれー!」
「おっす、よろしく」
「新人さん?ボクらもうポチT持ってるから次出たら優先的に取っていってね」
パーティーのメンバーは挨拶もそこそこに2頭身の柴犬に突っ込んでいく。
リヒターも固まっている様子ではあったものの、回復は任せろ、とマホンに言わせれば安心したと呟いて飛び出していった。
マホンも、パーティー全体の攻撃力を上げるサポートスキルを展開してから、敵の動きを封じる魔法陣を強いてアシストにまわった。

 「いやはや魔法職さん助かりました!もし良かったらまた頼みますよ」
「ボクも最近はずっとココに籠もってるから、ポチ狩りの時は是非〜」
「フレの契りを交わさん……」
なんだかんだと22時40分を過ぎて、そろそろ頃合いかと声をかければパーティメンバーはぞろぞろと手を休めてくれる。
会話こそほとんどしなかったが何時の間にか友情のような感覚が芽生えているのは次郎だけの勘違いではないと信じたい。
そしてそれは真実であると証明するかのように、この3人とリヒターとの5人は、しばしば共に行動をするようになるのだがそれは別の話。

「おかげさまで今日だけで10M貯められたわ。サンキューマッホ」
「どういたしまして 俺もフレ増えて面白かったし」
次郎は嬉しそうなリヒターの文字を見ていると心が癒される。
画面の向こうで、その中の人も笑っていてくれると良いのにと思った。

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あきゅろす。
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