アラマホシーズンズ 1 メールが届けば、冒険が始まる― そんなキャッチーなコピーで彩られているのは、今は懐かしいMMORPGのひとつ。 オンラインで繋がることが全盛期となった時代、PCを使ったゲームは多種多様に存在していた。 本間次郎が中学から高校までの青春時代をつぎ込んだのも、そんなゲームだった。 メイクによって変えられる個性は100万通り以上を謳い、自分だけのオリジナルキャラクターで旅に出られる高揚。 ファンタジーに憧れる世代の心を掴むようによく出来たメインシナリオ。 周りが色恋に沸いていようとお構いなしに、帰宅部をチョイスし毎日急いで帰宅してはログインを繰り返した。 そのゲームのサービス終了が告知されたのは、まさに青天の霹靂だった。 仕事終わりに電車に揺られている時。何気なくスマートフォンで眺めていたニュースに見覚えのある名前がおどる。 “11年の歴史に幕” そんな身も蓋もない簡素なタイトルからは、いっそライターのやる気のなさすら感じられる。 ソーシャルゲームですら下火と噂の今だ。パソコンをわざわざ起動してまでゲームに参戦しようという人の方が希有になっているのだ。 しかしながら、次郎にとってはそれは悲しいニュースだった。 尤も、逃げるように引退してからすでに4年の月日が流れているのだから、自分が今更どうこう言う資格もないように感じてはいるのだが。 (会員数1000万人を越えた実績もある―アニメコラボも積極的に行ってはいたが―) ありがちな文章を親指のフリックで流しながら、胸にこみ上げる寂しさのようなものを飲み下す。 まるでそれは、毎日通勤中に見ていた建物がある日突然建て壊しになっているかのような喪失感があった。 いつの間にそんな事になっていたんだろうか、もっと早く知っていれば……後の祭りとは言え焦りが滲む。 ページの最下層までスクロールが終わると、詳細がまとめられている。 正式なサービス終了は、再来月末。 新規登録の受付終了は、奇しくも本日の23時59分まで。 スマートフォンではなく腕時計で時刻を確認してしまうのは、社会人になれきってしまっているからか。 学生の頃から幾度となく電池を交換して修理を繰り返してきたこれも、やっていたゲームのNPCがプリントされているお気に入りの物だった。 兎も角次郎は文字列を人差し指でなぞる。 20時11分を過ぎたばかりで、まだ帰宅してすぐなら間に合うのではないかと思えるような気がした。 夕食の買い物もそこそこに、テーブルにコンビニ弁当を投げだしスリープ状態のままのノートパソコンを引き寄せる。 ゲームの名前を検索しようとして、“お気に入り”のタブからアクセスを試みる。 「URLが見つかりませんでした?そうか、俺が辞めた後運営会社が変わったから」 改めて検索欄に入力を済ませると、急かすようにエンターキーを二度叩く。 初めて見るページでもない筈なのに、見知らぬ装備やキャンペーンの告知がメジャビュを感じさせる。 仮会員登録の自動返信メールが無事に届いて、ほっと息をついたその時、次郎は自分が緊張していた事に気がついた。 長い長いインストールに入り、弁当箱の蓋を開ける。賞味期限の間近に迫る生姜焼きは安くてそこそこの味が楽しめるのだ。 「タイプはどうすっかな―うわ、今ってレースクイーンなんてジョブがあんのか……どんな攻撃するんだ?」 独り言がこぼれる。キャラクター一覧を物色して、懐かしさに浸っているとすぐ最近までプレイしていたような錯覚がする。 以前のメインは、闇を操る魔術師。子供が好きになりやすそうなダークヒーローだ。 「名前とジョブが逆だよなって、よく笑ってたな」 ダウンロード完了まで、残り数十分。 そんな時でも次郎が思い浮かべるのは、たった一人の存在だった。 [次へ#] [戻る] |