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1059459(更新中)

 横瀬が生徒会室−といっても一般生徒は一切入室を許可されていないので入り口のみだが−に設置した盗聴機は2つ。
まずは監視カメラの側面だ。通常、人の声は上に上っていくというのが古来からの考えであるので、出来るだけ高く、そして目立ちにくいところでなければいけなかった。

「僕、将来の為に監視カメラの解析力に興味があるんです」
と可愛い子ぶって守衛にそう尋ねれば、人のいない冬休み中に学校中の監視カメラを案内してくれた。
そうして生徒会室の前まで来た所で、相手が目を離した隙をついて取り付けたのだ。
怪しい動きと思われないように、ごく自然な仕草を意識したためか、今の所は順調に音を拾えている。
いかんせん、カメラの機会音が雑音のように混じるのが相性の悪い所ではあるが。

(万が一にでもこっちがバレても、俺にはもう一個あるからな)
聡い人物の多い生徒会執行部だ。役員のうち誰か一人に気づかれてしまえば速攻ではずされてしまうに決まっている。
そこで横瀬は、生徒会の扉の豪華極まる装飾の中に、もう一つの盗聴機を設置するに至ったのである。

「それにしてもこのゴツイ装飾すごいですよねー!わー触ったからこそ分かるこの厚み!!」
「ちょ、ちょっとそんな乱暴に扱ってはいけませんぞ」
困る守衛をさておき、興奮したふりで扉を撫でる最中につけてしまえば、気づかれる事もない。

(中等部でこんなえげつないドア見飽きたけど)
それにしてもこの学園は、お金が有り余っているのか無駄な装飾が多いように見受けられた。

 一つ目が発見されれば、すぐさま二つ目に切り替えれば良い。
そうして横瀬は、生徒会役員の素晴らしき日々の視聴者となったのだった。

 (……実際こうして考えてみると、僕って一歩間違えればストーカーなんだな)
一歩間違えなくても既に取り返しのつかない局面になっている事はさておき、横瀬はイヤホンの先へと意識を集中させる。
授業に出席する義務のない彼らは、今日も早くから生徒会室に集まっているようだった。
廊下まで、その盛り上がる声が響いてくる。

「……ん、この紅茶美味いな」
「水素水を使っているので体にも良いと思いますよ」
「最近若い女性にはやってるよね、俺も外部にいる彼女に教えて貰ったけどさぁ」
「アリスの場合、彼女達、だろ」

生徒会長でも普通に紅茶を楽しむのだという、当たり前の事実が面白い。
強かそうな敬語は副会長だとして、彼女、と語感を強調した彼が会計の金谷だろうか。

(金谷……有守、ああ、あれってアリスって読むのか)
確かに読めなくはないが、読めたところで呼ぶ事などないだろうと記憶の片隅になげうつ。

「でも本格的に授業とか始まったら、忙しくなりそうですよね」
「その割には……楽しそうだ」
「庶務とか入れないのぉ?」

間延びした声色で金谷がそう言えば、他の三人は一斉にノーと回答したようだ。

「だってアリス、初対面の人には絶対手を出すだろう?」
内原の嘲笑したような声に、本当に気の置けない仲間なのだという感じがひしひしと伝わってくる。

(この人達って、幼なじみか何かなんだっけ?)
興味がなさすぎて忘れてしまっていたが、今後は必要になるかも知れない。
横瀬は先ほどの頭の片隅に、“役員同士の関係を確認”とメモを加えたくなった。

「っていうか、紅茶よりバターコーヒーが飲みたい気分なんだけど」
「……淹れて貰って文句言うな」
なるほど、確かに無口ではあるが、立科はその一言だけで場を鎮火させる力を持っているらしい。

(こうして遠くから知ってる分にはいいけど、直接は関わりたくないな)
正直な所、横瀬は高圧的な人物が苦手だった。
自分がのらりくらりと生きている自覚がある手前、そういったタイプの人間とは相性が悪いのだ。

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あきゅろす。
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