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 横瀬が提出したのは、結局自分が直接関わる事で理解できた花岡の一面だった。
学園大注目のイケメン教師の特集という事でその月の校内新聞は大増刷させられる程の売り上げになったとかならなかったとか

「なお、売り上げは世界の恵まれない子供たちに寄付されていきます……」
「ジロ、ちゃんと話聞いてるのかな?」
「ワンワン!!そんな犬みたいに呼ばれても聞いてないワンっていってぇ!!」
まさか自分までデコピンをされる羽目になろうとは。
十五歳の春にデコピンバージンを奪われるなんて……とわざとらしく横瀬が泣くフリをすれば、二度めの制裁が向かってきそうになって、慌てて謝る。

 ここは職員室。横瀬は一年D組の生徒として、担任の教師直々に及びだしを食らっていた。
形式的には。

「−でヨコセ君よ、大浴場はどうだったかね?」
「もうあれから毎日は入ってるね!どうです?俺変わったなとか感じない?」
「アゴがシュっとしてきたっていうか……ハンサムになってるような」
「何その例え!!オカキ先生大阪のおばちゃんみたい……」
「君ねぇ私一応目上の人よ?そんでもって全国の大阪のおばちゃん敵に回してるからな?」

全国の大阪のおばちゃんって、一体。
横瀬が意味をはかりかねて首を傾げると、花岡は忘れていたかのような表情で手首を振った。

「そうそう、ジロちゃんちょっと
頼まれ事してくれるかね」
「高校生活最初の呼び出しがまさかのパシリって!!父ちゃん母ちゃんに一瞬謝りかけて損したよ僕ぁ!!」

どうでも良いけど、ヨコセって場面によって一人称ころころ変えるんだな、と嘲る花岡をよそに、横瀬は頼まれた資材を教室へと運ぶ。

(全く、何度言えば分かるのか、僕には父ちゃん母ちゃんと−準太兄ぃとお揃いの、ヨコゼって名字がちゃんとあるのに)
教室に着くと、ざわめきたっていたクラスメイトが一瞬ぎくりと静止した。
視線から感じる事は、好奇心と、少しの嫉妬心。
なるほど、先ほどの花岡との会話を見ていた生徒がいたのだろう。
早くも親衛隊めいた信頼を集め始めている担任に、横瀬は少しだけ驚いた。

 「委員長、オカキ先生がこれ配ってって」
部活動・委員会申請書だ。
横瀬はすっかり忘れていたが学校生活を彩るこれらの活動はまだこれからが本番なのだった。

「書き終わったら言ってな。集めるから」
委員長、と呼ばれたまだ名前と顔がはっきり判別出来ていないクラスメイトは、華が綻ぶような笑顔を浮かべたまま、一人一人に配布していく。
だが、しかし肝心な横瀬の元へは、いくら待てど暮らせどその用紙が届けられる事はなかった。

「あのー……っと、自分で取りに行くかな、ははは」
ふと顔を上げた瞬間の、委員長のなんと冷酷な表情の事か。
先ほどまでの思わず恋したくなってしまうような愛くるしいものとは打って変わって、まるで氷のような顔をしている。

(オカキ先生、イケメンって奴は罪作りなもんだよ本当に)
こういう時、どういう態度を取ればうまく立ち回る事が出来るかどうかくらいは中等部で学んできたつもりだ。
道化のようにふわついて、先生になんて興味ありませんというキャラクターを押し通す。
そうしていれば、その内ただの先生にこき使われるただの一人になれる筈だ。

 用紙を片手に自分の席へ座してイヤホンを耳にする。
こんな時は、生徒会の皆様の上流階級の会話でも聞いて妄想にふけるとしようではないか。

(それにしても、あの雪の華とか呼ばれる事もあった委員長キャラも、教師という役職には弱いんだな……意外だけど新たな萌えを発見出来て万々歳)
転んでもただでは起きるつもりがないどころか、自分の欲求解消の為ならなんでもつまみ食いしてみせるのが、横瀬のモットーだった。

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あきゅろす。
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