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 ところで両親と顔をつき合わせる事で、悪事を働いている事に対して良心は痛まないのかという疑念が浮かぶ事と思う。
横瀬の場合、それはノーだった。
自身の欲望を満たすためでもあるが、この趣味はもはや自分一人のものではなくなっている面もあるのである。

 この学園には部活動や委員会などに参加しなければいけないという決まりはない。
しかしそれでも、母親は「何かしらに手をつけておけば、それだけ将来アピール出来るポイントが増えるから」と息子を千尋の崖に落としたがる。
兄・準太は、中等部に入学する前にテストをしてやると言って様々な運動を横瀬に教えてきた。
ラクロス、ラグビー、バスケットボール。
スラックラインなど、あまり有名ではないものにまで手を出した結果、導き出された答えは“次郎は文化系”だった。

 横瀬は正直なところ、特にやりたい事がなかった為、こうして兄にレールをひいてもらえる事自体は有り難かった。
だがしかし、それも速攻で否定したくなるのだった。
中等部一年の六月に友人に誘われる形で、幽霊部員だらけの新聞部に入部するまで、毎日のようにアレを試せコレを試せと連絡が入っていたからである。

 そんなこんなで、横瀬は高等部持ち上がってからも新聞部に所属するつもりではいた。
友人もそこそこ参加しているし、何より、自分の持ち味を存分に生かせるからだった。

(−って高等部の新聞部にまだ入部届出してないのにもうノルマの連絡来てるのかい……)
新聞部の主な活動、それは学園内にはびこる悪辣な事態を白日の元に晒け出し、平穏無事な自治を行う事−と部長は言ってはいる。
だが実際は、三流以下のゴシップ記事程度のものが、校内新聞の76パーセントを占めていた。

「中等部テニス部に春来たる〜……ってこれは別に送らなくてもいっか」
新聞部部員にな、部室に集まらなければいけないというルールがない代わりにノルマを強いられる。
毎日のように部室棟に通わなければいけないという苦しみを選ぶかこちらが良いとするかは個人の自由ではあるが、横瀬にとってはこちらの方がマシだったというだけの事。

(だって俺はどんな事だって聴けちゃうからな)
一人ほくそ笑みかけて、これでは完全に変質者だなとすぐさまそれを打ち消した。
目を閉じて考える。盗聴は犯罪。
他の誰だってこんな方法使っていないんだからフェアじゃない。
それでも知ってしまったからには誰かに報告せずにはいられないのが横瀬の性格だった。

 「横瀬君、いつも期限ギリギリでしっかりノルマクリアしてるよね、僕にも手柄をヨコセーって感じ」
「人の名前をギャグにせんでくれ」
友人を軽くデコピンすると、彼が手にしていた報告書のレポートがたゆむ。

(よく言うよ、本当。君の方こそ隠し撮りでスクープ掴んでいるっていうのに)
しかもそれは、すでに高等部へと進学していた先代の新聞部部長が誘導しての事だ。

『部長、僕まだ入部してないのにこんなに集めてっきました……ぅっ』
『可愛いね、僕の小鳥』
『ぁっ、部長のくれた一眼レフのおかげっ……ですっ』

自分とさして変わらない普通の少年である筈の友人は、イヤホンを通した向こうの先では大層自分の秘密を語ってくれていた。
そうして一時の蜜月を過ごした後、きっと友人は顔を赤らめて部室を飛び出していくのだろう。

(……その後別の生徒のあられもない音声が聞こえてくる事を、俺は知ってる)
部長は気に入った生徒に“君だけにだよ”と金に物を言わせたプレゼントをするのだ。

「この不毛な恋をレポートに書いて提出したらどうなるのっと」
「横瀬君、何か言った?」
「いやいや、これからもノルマクリアしてかないとなーと思って」
うっかり回想に頭をもっていかれてしまったせいで一瞬現実が分からなくなりかけた。
横瀬は苦笑を一つして、報告書を丸める。

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