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 ここで一つ確認をしておくと、まごうことなく盗聴は犯罪である。
恐らくは教員などに見つかった場合は一発退学ものであるだろうし、絶対にやってはいけない事である。

(準太兄ぃが見たら卒倒して仕置きされるかも)
そうとは理解しているのに何故その選択肢をとってしまうのか。
それは彼なりの反骨精神なのかも知れない。

 この学園は初等部から高等部まであって、校舎はもちろん寮を含めるとその規模は相当なものになる。
場所がそれだけ大きければ人数もその分嵩むというもので。
日々どこかで何が起こるか等は一切不明。
外に出るのにも申請が必要で、外へ刺激を求められないのであれば内側へその欲求が伸びるのは当然の事だった。

(端から見ればイヤホンしてるなんて気づかれないし、分かっても音楽聴いてるようにしか見えないしな)
孤独に音楽を楽しむサブカルボーイとでも表現されるに違いない。
耳に差し込むなれた感触もそこそこに、横瀬は音楽プレーヤーを改造した傍受機のスイッチを親指で押した。

 生憎と今日は土曜日の朝だから、校舎内は人払いをされている事だろう。
高等部へと歩きながら、未だ中等部に設定されたままのいくつかのチャンネルをザッピングする。

「そっか運動部はもう練習とかしてるっけ」
であれば一番あり得るのは部室棟。
ピピピ、とチャンネルを上へ合わせて再生ボタンを押せば、期待通りの声が聞こえてきた。

 『イシダッ、ぅひっ、ダメだッ……だめやめ、だって……ッあぁl!』
『せーんぱい、ダメダメ言ってる割には全然受け入れ体制じゃーん』
『はっ、ぁぅ、んんっ……!』

雑音混じりに耳に届いたのは、いやらしい水音と淫らな声色。
油断して音量が高まっていたせいで、横瀬は慌てて音量を下げる。
万が一音漏れでもしたら一貫の終わりだ。
極力音漏れしないように、通販でも高評価のものを選んだのだから、その心配もあまりない筈だが。

 (この声は卓球部の祖父江君じゃないか……もう一人は今引き継いでる石田君と見た)
この二人は石田氏の入学早々から喧嘩ばかりで仲が悪いと噂であった。
しかし横瀬は一目見たときに気がついていた。
この二人は近い将来くっつくに違いない、と。
腐っているが故の勘みたいな物なのだろうか。
そうであるとしたらあまり本人的にはよろしくないのだが。

 何はともあれ、二人の密事を聞き及びながら横瀬は高等部に到着した。
「中等部の頃から思ってたけど……何というか豪華の一言だな」

若干の無理をしてでも、息子を良い職につけたいと両親が送り出したがる気持ちも分かる気がする。
もちろん自分自身も相当な受験勉強を強いられたものだが、その結果今現在安心してくれているのであれば横瀬も嬉しかった。

(そうだ、大浴場にもつけらんないかな、コレ)
盗聴機は無線で飛ばす精密機器である。
高温多湿に晒されやすい状況に設置をした事は今までなかったが、避けた方が良さそうだと自分の中で判断する。
人気が一切ない事を二度三度確認をしてから、軽くジャンプをして生徒会室のドアに取り付ける。
さすがの休日にはほとんど人の気配がない。
だからこそ横瀬の作業はサクサクと進んでいった。

 −父ちゃん母ちゃん、ここで集めた情報は悪用しない事を誓います。
だからどうか許して下さい。

目を閉じてプレーヤーを握りしめながら、横瀬は中庭のベンチに座り込む。
寮にも人の話し声はしないが、イヤホンを差して再生すればひと度孤独感は打ち消されていった。

「中等部から持ち上がる人もいるけど、出ていく人もいれば外部からの転入制もいるんだよな、新学期のうちに覚えるようにしなきゃな」
花岡が言っていたように、見た目の珍しい人も少なくないようだ。
これならもうしばらく退屈しないで済みそうだった。

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