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 成績優秀、眉目秀麗、大金持ちの家だからこそだろうか、通う生徒は皆人並み外れた特異性を持っているように横瀬は感じた。

「俺の持ち味って何だろう……」
「考えごとするのはいいけど手だけは動かしなさいよ」
「へいへーい」

花岡に言われるがまま、講堂の床を箒で撫でる。
清掃員が毎日欠かす事なく塵一つ見逃さない完璧な仕事をしているのだから、あまり意味のない仕事ではあるのだが。

「先生に指図されて二つ返事でオーケーしてくれるのなんて君や内原君くらいだな」
「ウッチー君、一年なのに生徒会入るの決まってるもんな、凄いよ」

中等部の時、二年間だけ同じクラスだった内原という生徒を思い出して横瀬は頷く。
面倒見のよい彼も自分なんかと一緒にされては迷惑だろうが、それでも誉められた気がして少しだけ鼻が高い。

「彼はイケてるメンズだから、生徒会入れるのもありそうだけど。ヨコセと違って」
「どうせ俺はヘチャムクレだよ」
「そんな自分を卑下しなくっても」

若干に引いた顔色を浮かばせて花岡は横瀬の集めたまるで馬鹿には見えないゴミをちりとりでまとめる。
生徒会か、と横瀬はその光景を見ながら再び回想する。

 抱きたい抱かれたいランキングとかいう頭のネジをふっとばしたような人気投票を水面下で行い、それに成績と素行が相まって生徒会執行部の役員は決められている。
と、いうのがこの学校一番のミステリーな噂だった。
生徒会長の立科雅俊は、やはり両方のランキングで総合優勝という事になる。
成績は常にトップクラスで、カリスマ性もある。
若干口数が少なく見うけられるが、親衛隊曰くそれはそれで気だるげそうで俺様感があっていいらしい。

「俺には良さが一切分かりませんな」
「んな事いってジロちゃんだって、月曜の入学式参加したら目の色変えてポーっとなっちゃうんだろうよ」
「ナイナイ」

中等部で既に一回見ているうえに、既に散々見かけてきているのだ。
確かに物差しの入ったようなしっかりとした背筋の良さには尊敬するが、それだけだ。

それに、と横瀬は口には出さずにポケットに手を入れる。
自分には“コレ”があるから−と誰に言うわけでもなく親指でその物をいじって苦笑いをする。
すっかり装飾の完成した講堂を一瞥して、花岡もようやく額の汗を拭った。

「あとは土日だらだら休んで、月曜に入学式するだけだな」
「何終わりみたいな顔してるんだか、アナタはそっからが始まりでしょうに」
「いやそれは君もだからね」

そういえばそうでした、と返事をすると、思わず笑いがこみあげてきた。
咳払いを一つして何でもないように誤魔化したのが花岡にはどう映ったのかは分からないが背中を押されて講堂を追い出される。
鍵を閉めて外へ出るとすっかり日も落ちて星が綺麗だった。

「中等部の時ホームシックになって抜けだしたっけなー」
「寂しがり屋なのか?暖めてやろうか?」
「ノーセンキュー」

寮までの道のりを歩いていると、横瀬の脳裏には数年前に兄に言われた言葉が思い浮かんだ。

(顔も悪い、頭も悪い。お前みたいな出来の悪いのは、家から離れて修行しないといけないんだからいい加減に兄離れをするんだ)

「あんな奴の顔見なくて済むんだったら、ここも案外天国なのかも」
「住めば都って言うしな」
「せめて顔が良ければ会長みたいに人気になれたかも知れないのに」
「じゃあ寮の大浴場に毎日入る事だな。ありゃ美人の湯って噂の源泉を引いてるらしいよ」

驚きに横瀬が振り向くと、花岡はどこふく風で自室へと帰っていく。
初対面の時、趣味は長風呂だと花岡が言っていたのを思い出して横瀬は戦慄した。
確かに花岡の顔は、すこぶる美形にい所属する部類なのだ。ああ、今日のお礼を貰い忘れたと思うよりも早く、横瀬は風呂に入る準備をしなければと決意していた。

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あきゅろす。
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