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 両手に花という言葉の意味をご存じだろうか。
二つの良いものを手にしている状態、または二人の美人な女性をはべらせている事の様を表すのだが、横瀬次郎は、まさか自分が実際にそれを体感する事になろうとは思ってもみなかった。

「右手にサクラソウの鉢植え四個、左手にバラの花束三個−って絶対これ意味違うだろ」

文句は言ってはいるが横瀬は手首に力を込めるのはやめない。
まだ春と呼ぶには些か肌寒い日もある、そんな三月の事。
全寮制の男子校に中学から属する横瀬には高校受験の必要がなかった。
実力考査はあるが、そこそこの成績であれば問題ない。だから通常より少し努力する程度で勉強は完了してしまった。

「そういえばヨコセ、外部からの新入生の話聞いたか?」
横瀬に花を次々と手渡してくる教師−花岡京太郎は、横瀬を中等部時代からこき使ってくる面倒な先生だった。

横瀬は受け取るとなれた手つきでそれらを二階へと運びながら返事をする。
「オカキ先生、俺の名前ヨコゼだから……って外部生?初耳〜」
「君こそ目上の人の態度どうにかしなさいよって、なんか凄い髪の長い奴がくるみたいなんだよ」

噂好きな教師って嫌だなぁと適当に相づちを打ちながら、横瀬は鉢植えを均等に並べて、花束を花瓶にさす。
普通であればもっと多くの人数を割くであろう作業も、花岡との二人芝居だ。

「髪の毛長いのがそんなに面白いもんかね」
「実は校則的にはアウトだけど。もし明日ジロが髪の毛急に伸ばしてきたら一頻り爆笑して写メ取ってバリカンする自信あるよ」
「人の名前を犬っぽく呼ぶのはよしとしよう。でもいい大人が爆笑の使い方間違ってるのはどうなのさ」

綺麗に陳列された花たちを前に手のひらの汚れを軽く叩くと、中腰だった花岡もようやく重い腰をあげてから首を傾げた。

「爆笑の言葉の使い方くらい、ちゃんと知ってて言ってる。だってツイッターで拡散するからな」
「うわ大人げない!!」

 横瀬が花岡の標的−上手いこと動いてくれる駒のごとき扱いをうけるようになったのはつい先月の事。
高等部の教師として新たに赴任してくる事になった彼に、たまたま寮内で散歩していた横瀬が遭遇したのだ。

「花岡京太郎と申します。よろしく」
「ハナオカキ……?オカキ先生!」
「君大丈夫?一応私教師なんだけど?」
「あ、俺は横瀬次郎です!よろしくたのんます」
「もっと言うと寮監もやる予定だから」
「ゲッ、もっと早く言ってよ」

 これは完全に横瀬の自業自得であるのだが。
この教師をなめきった態度が花岡に目をつけられる起因となっている事を横瀬は度々後悔していた。

(だって高等部の先生いっぱいいるから、俺のことなんてどうせすぐ忘れると思ったのに……!!)

 翌日には寮監督の部屋に荷物を運び込む作業を手伝わされる事となるのだ。

「引っ越し屋代金をケチるとか、オカキ先生それでもエリート高校の教師なんすか」
「来月お礼に学食の豪華定食おごってやろうと思ったのにな、こいつ残念な奴だよ」
「うわーオカキ先生の手伝いが出来るなんて光栄だなぁ」
「君ねぇ、ちょっとチョロすぎやしないか」

 全寮制男子高校。将来、国や世界へ羽ばたいて支えとなるエリートになる事が確約されたこの学校。
閉鎖的な空間のせいであろうか、右を見ても左を見ても同性しかいないこの場所の事を、ある生徒は天国と言った。
横瀬にとっては−まだ、地獄である。

「オカキ先生がこの学校に染まっちゃうのは嫌だな」
「なんか悪いけど、私この学校のOBだから、君より詳しいよ……」
「マジか!!あっだから寮監」
「そういう事です。まぁノンケだけど、な」
「うわ〜今日イチ信用ならない言葉きたわ」

花岡が学生時代だった頃から、やはりこの狂った学園の空気はあったのだろうか。

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