透明光速 五月02 「今日は、何時もと趣向を変えてチャーハンを作ってみようと思うんだ!」 それはそれは見事なまでに丸く綺麗なチャーハンを前に、加瀬はそう言う。どうやら見本らしい。 俺は前日までにやっていたオニギリや野菜炒めのリストラ、及び突然のグレードアップに驚いた。 自分でも挙動不審になってしまう。 「グ、グリーンピース買って無かったよな」 後ずさりをしようとする俺の手をしっかりと加瀬が握る、畜生。 「逃げるのはナシ。大丈夫。ご飯は友達ご飯は友達」 まるでどこぞのサッカー少年のように、加瀬は大事な事を二回呟いた。 チャーハンの結果は……まぁ、想定の範囲内。 ご飯は飛び散り卵は焦げた。何と言うカオス。 なんとか形になった物を食べて見たが、あまりのコゲ臭さに噎せてしまう。 「ある意味魔法だねこりゃ」 一口食べた加瀬はふむふむと観察している。 俺はそんな加瀬の様子に、これまでとは違った雰囲気を見いだした。何だか、優しげな……。 「今日はタナカ頑張ってたね。一番やる気あって一番ひどい出来だよ」 誉めながら貶すと言う画期的な技術で加瀬は微笑んだ。 今一瞬見せたのは何だったんだ。俺はふん、とそっぽを向く。 「でもさ、加瀬もよくこんなの食えるよな。面倒じゃねーの」 自分でも苛立ってくる程に嫌な言い方だった。 こんな事を言われたら教え甲斐も何もあったもんじゃない。しかし、目の前のこいつは己の表情を微塵にも変えないままに、俺の言葉を真っ直ぐ否定した。 「タナカだからだよ」 「は……?」 それ、どう言う意味だ。そう問いただそうとすると、加瀬は何でもないように鼻歌を歌いながら、さっさとフライパンを洗って調理室を出て行ってしまった。 [*前][次#] [戻る] |