透明光速 四月05 料理部は加瀬を含めて五人と、かなりギリギリの人数で、しかもほとんど幽霊部員らしい。 放課後の調理室では、何時も加瀬が一人でもくもくと何かを作っていた。 その姿は真剣そのもので、何故だか俺は、来る日も来る日もその様子を見に来ていた。ストーカーではない。断じて。 授業が終わった直後、のんびりと教科書を仕舞う加瀬の背中をつつく。 加瀬は、少しだけ動揺の色を見せた後、振り向かずに尋ねた。 「なぁにタナカ。俺今ちょーっと忙しいんだけど」 その態度に少なからず、いやかなり腹がたった俺は、加瀬の腕を容赦なく掴んで立たせる。 周りの視線を無視するように調理室までズンズン進むと、お構いなしに入り込んだ。 「ちょっとさ、話があるんだ、けど……」 そうしてようやく加瀬の顔を見ると、複雑そうで、躊躇うような表情をしていた。 腕が痛かったんだろうか。 掴みっぱなしだった腕をそっと放し、その顔の前に、ずい、と弁当箱を寄越す。リベンジだ。そう言うと、加瀬は加瀬もはー、と息を吐いた。 「タナカ怒ってるんじゃないの」 「怒ってない。不安だった。俺の十何年かの料理が否定されたし」 馬鹿正直な俺の言葉に、加瀬はうーん、と苦笑して割り箸を取り出した。 そしてそのまま無言で食べ始める。 「うん、なんて言うか。俺って料理大好きなのね。だから、どんな物を食べても粗を探さずにはいられないの」 きちんと完食してからそう言うと、米の炊き方を始め盛り付けの適当さをビシバシと指摘してくる。 そのどれもが的確で、俺は有り難いお言葉だわーと呟きながら、ポケットからある紙を取り出した。 言わずもがな、料理部への入部届だ。 「そんなこんなで、俺も参加させて貰えると有り難いんだが」 加瀬は、入部届と俺とをチラチラ見た後、嬉しそうに微笑んでみせる。 「俺、ちょー厳しいよ?」 この数日間の不安を、ようやく降ろす事が出来た俺も、思わず笑ってしまう。 「望むところだ」 [*前][次#] [戻る] |