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透明光速
十月02
 一日目の朝。一口タルトとスイートポテトを菓子箱に積めて、調理室を出る。
向かうは、一番買ってくれそうな人物の居る場所だ。
 ヘッドドレスにエプロンと言う羞恥的な格好を聞きつけたクラスメイトに取り囲まれた俺は、生まれて初めての写メ地獄に陥っていた。
ピピッ、カシャ、撮りますよー。多種多様なシャッター音をBGMに、俺は自分の教室を歩く。
勿論、セリフも添えて。

「メ、メイド特製手作りのお菓子はいかがっすか」

駄目だこれ自分で笑う。
何の冗談だか良太が用意したセリフは全部で五十個程あり、中には『妹』の設定の物まであったが、流石にリアルお兄ちゃんである俺が耐えられる自信がないので絶対に言わない事にした。
俺のセリフに、クラスメイトは大爆笑だった。
しかし、笑いを取ってばかりで肝心の販売が出来ない。
買う所じゃないから後でまた来てよ、と息も絶え絶えに言う担任を軽くけ飛ばして、俺は教室を飛び出した。
 廊下で会った良太は、二つの腕章をしていた。
保健委員の腕章と、料理部の腕章だ。
救急箱をよいしょ、と運ぶ良太は、小動物に似ていた。

「どこまで持って行くんですかご主人様」

その救急箱と、菓子箱とを交換してやると、意外に重く、これなら怪力の疑惑がある良太でも苦労するな、とため息が出た。
良太は、救急箱を抱える俺の手をじーっと見つめていたかと思うと、口を開いた。

「キラ君、そんな事ばっかしてると掘られちゃうよ?」
「惚れられるんじゃなくて!?」

いきなりそんな事する奴いないだろ。
良太って天然か?そう言って笑っていると、いきなり襟が引っ張られる。
為す術なく引かれると……ってあれ、何で俺、良太にキスされてんだ。息苦しさと驚きに目を見開くと、良太はさっ、と後ろに退いて意地悪そうに笑った。
その目は、楽しそうに歪んでいた。

「こんな感じに、ね」

加瀬に失礼なんじゃなかったのか。
救急箱を持って走り去った良太についてゆけず、俺はその背中を何時までも眺めていた。

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