透明光速
九月05
加瀬は文化祭で売る予定のお菓子を試作していた。
机の上のメニューには、材料費と時間がきっちりと書いてあって、加瀬の気合いが感じられる。
でもクッキーとかタルトっていかにも女子が好きな食べ物だよな。
「菓子の売り歩きなんて、よく思いついたな」
「エヘヘ、これでも一生懸命考えたんだよー」
加瀬、お前意外と賢いんじゃねーの、そう言う俺に加瀬はプンプンと憤りながら照れる。
器用な奴だよな。そう言う器用さは俺も見習いたいものだ。活躍させる場面がないだろうけど。
一応一人でやる様な行程にしてた、と言う加瀬が見せた当日までのスケジュールには、食材の調達からお金の管理、販売する時の注意まで、びっしりとやる事が書いてあって、これを一人で加瀬がやるのだと考えたら背筋がぞっとした。
調理はアレでも販売位なら俺だって出来るのに。
「ごめんな、一人でやらせようとして」
「ううん。気づいてくれて嬉しかったよ」
本当言うと、ちょっと寂しかった。加瀬のその言葉に、嘘はないと思う。
と言う事は、良太も暫く来てないのだろうか。
俺はふと、ある事を思いついて、加瀬からスケジュールを貰う。そして、ペンを手にした。
新しく書き換えたスケジュールには、加瀬と俺と、良太の名前を書いた。
「三人でやった方が効率いいだろ」
その前に良太を連れてこないとなー、そう言いながら、加瀬にスケジュールを手渡そうとした、その時だ。
不意に俺の指と加瀬の指が触れあってしまう。
一瞬だけ触れたそこは熱い。思わず手をひっこめた俺と加瀬。一気に気まずさが込み上がってきた。
何だこれ、何だこれ!
「っ……」
「あ、片づけ、しなくちゃ、アハハ」
ぎこちなく立ち上がる加瀬はさながらロボットダンスそのものだった。
俺も俺で、あわあわと震える心臓を押さえるのに必死だったが。
こんな気まずさで大丈夫なのか?やっていけるのだろうか……?
答えは簡単、全然大丈夫じゃない。俺は刻一刻と迫る文化祭に、今から焦っていた。
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