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透明光速
九月04
 「あぁ?何言ってんの小僧。んな理由でハイ退部ーなんて出来る訳ないでしょうが」

大人をなめるんじゃありませんよ。
全てを素直に打ち明けた俺に、担任の言葉は冷たかった。いや、まぁそれが現実なんだけど。

「多いんだよね、この時期。文化祭が嫌で辞める奴と同じくらいに、青春のドロドロ退部する奴」

まさかタナカがそうだなんてオジさんびっくりよ。
担任はタバコを窓から投げ捨てると、キッと真剣に俺に向き直る。

「たかだか友達んこしただけでしょ。だいじょぶだいじょぶ。人の噂も四十九日」
「それを言うなら七十五日です」
「チッ、ちょっと間違えたくらいで……これだから学生は」

ハーヤレヤレ、せいぜい文化祭で苦しめよ。
担任は捨てぜりふを吐いて生徒指導室を出ていく。
その背中に、問いかけた。

「え、文化祭の種目決まってるんですか」
「当たり前じゃない。今朝早々に加瀬が提出したよ」

そう言って先生が見せた紙には、確かに加瀬の字で、手作り菓子の売り歩き、と書かれていた。
担任は優しげに微笑むと、こう言いながら部屋から出た。

「他の部員に迷惑かけれないから、自分一人でも出来る奴にしたんだと」

 俺は再び、廊下を駆け抜けていた。
でもそれは、退部をする為じゃなく、加瀬の居場所、調理室へ行く為だ。

ー何で、気づかなかったんだ。
俺。加瀬があんな告白くらいで嫌うような奴じゃない事くらい、初めて会った時から知っていた筈なのに。

「見てんじゃ、ねーよ!」

叫びながら、たどり着いた調理室には、ほんのりと灯りが灯っていた。
俺は深呼吸を一つして、扉に手を掛ける。
勢い良く開けたその先では、加瀬が一人で料理をしていた。

「加瀬、お待たせ」
「アッキー?どうして此処に」

意外そうに目を見開く加瀬に笑い掛ける。
ああ、そうだ。俺はずっと、罪悪感で殺してきたんだ。
加瀬を好きでいる、と言う感情を。

ー好きでごめんな、でも、大好きだ。だからもう、離れてなんてやらないよ。

「遅くなってごめんな、俺にも手伝わせてくれ」
そう言った俺を見つめる加瀬の目には、小さく涙が浮かんでいた。

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