透明光速
四月02
「加瀬透です。趣味は料理とか。トオルって呼んで下さい」
先程のイケメンはそれはもう人当たりの良い微笑みでお辞儀をする。
すると、教室中からわあ、と小さな声が上がった。歓声に包まれたまま、加瀬は俺の前の席に座る。
イケメンの癖に俺の前とは生意気な。
自分の自己紹介をする為に、教壇へ移動すると、加瀬は口笛を鳴らした。
「タナカっ頑張れよ!」
「田奈川明。趣味は無し。タナカって呼ぶのは止めて下さい」
イケメンこと加瀬に習ってわざとひねくれた紹介をしてみる。
教室は一瞬シン、と静まった後、ささやかな笑いに包まれた。
「これはひどい」
「タナカ真面目か!」
「お笑い芸人なれんじゃねー」
タナカって呼ぶなって言ってるのにな。
俺は羞恥心を噛みしめつつ席に戻る。加瀬はニヤニヤと爽やかな笑みをしたまま、親指をピンと立てた。
「俺のおかげで盛り上がったね」
もうお前黙れよ。加瀬を睨んでいると、あっと言う間に紹介が終わってしまった。
思わず黒板を見ると、保健委員の欄には見知った名前が綴られていた。
ー田奈川明。
何時の間に!俺は抗議のつもりで手を挙げるが、教師は嬉しそうに頷いた。心なしか拍手もされている気がする。
「この委員構成で賛成してくれるか、嬉しいぞ」
委員長じゃないだけましだろー、と加瀬も笑う。
意地悪ばっかりかこのクラス。と言うよりはまぁ面倒を押しつけたかっただけだろうが。
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