透明光速
八月05
「自分で大切な物を壊した気分はどう?キラ君」
加瀬を取り残して、逃げ帰るように自宅に帰った。
鞄も制服も放置して、呆然とベッドに体を預ける。
何故か付いてきた良太は、我が物顔でベッドに腰掛けて、何を考えているのやら、訳の分からない表情をしていた。
加瀬の事だろうな。先程加瀬が掴んだ腕が、未だ熱かった。
「何かもう空しい……まいった」
ベッドに伏せて喋ると、布団に吸い込まれていくんじゃないか。そんな期待を打ち砕いて、俺の言葉は部屋に反響する。
「何時も元気なキラ君らしくない……でも良かった。これでキラ君とトールがくっつく可能性がなくなった」
ありがとう。良太の明るい声に、中指がじりじりと震えた。これで僕達も晴れてお別れかな?そんな風に言う良太に、俺はぼんやりと答える。
「俺達、付き合う必要無かったじゃねーか」
互いに好きでもないなんて、不毛だ。
そう言った俺に、良太はふう、とため息を吐く。
「キラ君が僕を嫌いでも、僕はキラ君の事、気に入ってたよ」
勿論トールが一番に大好きだけど。うっとりと述べる良太の目には、俺が写った事なんか一度だってないだろう。
少しは俺の事を思って言ってくれたんだろうか。
それでも空しさは北風の様に、どんどんと増して俺の心を冷やすだけだった。
「気に入ってるなら、いっそ襲ってくれりゃ良かったのに」
自分でも無意識に、ぽろりと出た言葉だった。いや、もしかしたら本音だったのかも知れない。
俺だってお前を慰めるくらいなら出来るし、慰めて貰うのだって……そこまで考えて、急にハッとした。
俺は今何を考えて、何を言った?ネガティブの海、恐るべし。
「いや、待て、今のなし今のなし、何かの間違い」
否定せんとして勢いよく起きあがった俺は、勢いそのままにベッドに押し戻された。正体は言わずもがな、良太だ。
「良、太。冗談だから、ジョーダ」
ン、が、言い終わらないうちに良太が覆い被さってくる。ぎゅうぎゅうと骨が軋む程に強く抱きしめながら、良太はそっと囁いた。
「キラ君、思い出、作ろっか」
―高速で、加瀬の顔が浮かんで消える。
動いたかどうか解らない位に小さく頷いて、俺は良太を抱きしめ返した。
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