透明光速 八月04 「お前が、お前がそんな事言ったら、俺、は……」 くらりと世界が回る。理性の檻に閉まっていた、言いたかった言葉が声になって飛び出していく。 必死に押さえようと堪えていると、加瀬は俺の顔をのぞき込んで来る。その顔は心配そうに歪んでいた。 「アッキー?どうしたの、言ってくれなきゃわかんないよ」 「言える訳ないだろうが!」 いっそ顔を覆ってしまえたら、この赤面も見られないで済むのに。 加瀬は俺の言葉を待つように、腕をぐいぐいと引っ張っていた。 「アッキー!」 こんな時こそ、都合の良い嘘が出ないものだろうか。 助けを請うように良太を見ると、良太は酷く混乱した表情で、ただ一点を見つめていた。 加瀬が握る、俺の腕だ。そんな良太に、加瀬は気づかない。 ただ俺だけを見ている、と言う事実が、俺を優越感に浸らせようとする。 ―何だかもう、全てが面倒な事にすら思えて来ていた。 俺は、加瀬の手からそっと逃げると、加瀬に背を向ける。 背後で、良太が息を吐くのが聞こえた。 「アッキー?」 加瀬の心配そうな声を聞くのも、これが最後かも知れないな。俺は意を決して振り向く。 「俺さ、お前が好きだったんだわ。多分、初めて会ったあの日から」 ごめんな、ごめんな。さっきまでと打って変わって、俺の脳内は謝罪で埋め尽くされていた。 加瀬の顔を、正面から見る自信がなくて、俺は地面を見つめた。加瀬が息を呑む気配がする。 「……え、アッキーが、冗談じゃ、なくて?」 余程予想外だったのだろう。 声が裏返っている。ちらりとかいま見た顔は、次に言うべき事を選んでいるような、悩んだ顔をしていた。 後悔と懺悔が、背筋をぶわっと沸き上がっていくのがわかった。目の前が霞んで、頬を伝う汗が気持ち悪い。 蝉が、遠くで最後の一声を上げた時、俺と加瀬の友情は、あっけなく終わってしまった。 いや、俺が加瀬を好きになった時、既に友情なんてなくなっていた様な物だが、兎に角もう、二人一緒に過ごす事はないのは、確かだった。 [*前][次#] [戻る] |