透明光速 八月03 「はい、キラ君」 可愛らしい熊のフォークが刺さったタコさんウインナー。 まるで女子が作るかの様な弁当に、俺はぞっとする。 それを知ってか知らずか、良太は俺の口元にそれを運ぶ。 いわゆる、アーン状態だ。 「保健委員カップルよ、ここは教室内なんだが」 「イチャつくならベッドでね」 イヤーン、アハハハ、外野の声って案外腹が立つもんだな。生まれて始めてクラスメイトに軽く殺意を覚えた気がする。良太の手からフォークをもぎ取ると、ぷつりとウインナーを噛み砕く。 焦げ目のないもさりとした表面を眺めて、やっぱウインナーはボイルだよねー、と盛り上がる料理オタクを後目に、俺はさっさと食事を進めた。 それからと言うもの、良太の「アピール」は見るに耐えないくらい猛烈に施された。 例えば休み時間はトイレにつれてってくれたり(ぶっちゃけノーセンキュー)、放課後は鞄を持ってくれたり、よくもまあ好いてない奴にここまで尽くせるな、と呆れて何も言えない。 加瀬を思えばこそなんだろうけどな。 俺に良太はよくわからん。明日の弁当は何がいい?と花も綻ぶ可愛らしい笑顔で聞いてくる良太に、ざるそば、と意地悪く返していると、昼食の後に無口と化していた加瀬がようやく口を開いた。 「なんかあってないよ、リョータとアッキー」 「加瀬?」 もしかして、俺と良太が本当は恋人ではないと気付いたのだろうか? 不安な顔を隠して加瀬を見つめると、加瀬は良太を見つめていた。 「リョータはさ、真面目ちゃんじゃん。バカなアッキーとは不釣り合いだと思うんだよね」 まるで挨拶をするみたいに、加瀬は俺の心に矢を放った。 決定打に近しい。 言外に、良太への思いが込めれられていると言っても過言じゃない。 しかし加瀬は、満足しきらない表情で頭を振る。 「嫌味が言いたい訳じゃないんだ。ただ、何て言うのかな、おバカなアッキーには、おバカな相手が合ってると思うんだ」 俺とかさー。この言葉が、真剣に言われた言葉だったなら、俺はどう返事をしただろう。 でも、今返事に困っているのは、他でもなく、この言葉が何時も通りにすらっと吐き出された言葉だったからだ。 「……お前が、それを言うのかよ」 何かが、プツリと切れた気がした。まずい。俺はもう、黙っていられない。 [*前][次#] [戻る] |