透明光速
八月02
新学期が始まって、俺の指の包帯に関して噂が飛び交ったらしい。
俺のアッキーが噂になっちゃうーと謎の悲鳴を上げる加瀬を前に、キラ君は僕のなのにね、と笑えない冗談を言う良太がいた。
「いや、マジで階段から落ちたらさ、ポッキリと」
あの日、医者や加瀬に苦し紛れについた嘘だ。
普通指が折れるなんてないからね、と良太が笑った。加瀬は、複雑そうな表情でこちらを見る。
「大丈夫?アッキー」
あああ、どうしようもない懺悔が俺を襲う。
加瀬、お前が心配してくれるだけで、俺は天国にいけるんだよ。そんな事、絶対言えないけど。
赤くなりそうな顔を窓辺に押しやっていると、良太が紙袋をつきだしてきた。
「お弁当、作ってきたんだ。食べてくれるよね……?」
俺の左手を気遣ってか、右手に紙袋を握らせる。
折った本人が気遣うと言うのも、変な話だけどな。
礼を告げる俺に、それを見ていた加瀬が口を挟んだ。
「何でリョータが?言ってくれれば俺が」
作ったのに、そう言おうとしたんだろう。
加瀬の言葉は良太に遮られた。
「付き合ってるから。これぐらいはしないと」
さらりと言われた一言に、俺に対する感情はなかった。
加瀬は、良太と俺とを見比べて、ええ、と小さく口にした後、
「おめでとう!え、え、いつから?いつから?」
と一人で大はしゃぎした。
喜ぶ姿は、嬉しい筈なのに、なんだか無償に腹が立つ様な気がして、思わず大声が出てしまった。
「指の怪我、病院に連れてってくれただろ、そん時からだよ」
解ったな?と言い残して教室を飛び出す。
そんな俺の背中を、加瀬がどんな表情で見ていたか。
気付いていたら、何か違っただろうか。
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