透明光速 八月01 良太の言った通り、怪我は大した事なかった。 しかし、夏休みにプールに行く、と言う計画は全て無くなってしまったが。 俺はすっかり家に馴染んだ良太と加瀬を一瞥すると、机の上の宿題を進める。 この二人はあの日から、怪我が心配だと毎日家に遊びに来ていた。尤も、良太はあの答えを聞く為だろうけど。 「お前ら宿題やれよ」 正直、良太には恐怖心を抱いている。 好きな人を思いやるだけで、あんな事を出来るなんて俺にはとても考えられない。 しかし、自分の物にならないなら、誰の物にもなって欲しくない、と言うのは、俺も感じている事だった。 だからこそ、あの誘いに乗ってしまいそうな自分もいた。 「アッキーの写すから早くやりなよ。ってかそこ間違ってるよ」 加瀬はニヤニヤとノートを指さす。 俺は自由な右手でチョップを返すと、良太と加瀬をしっしっ、と追いやる。 「うるせーよ!お前ら暇なら料理でもしてろ」 好き勝手にしていいからよ。 そう言うと、加瀬はハーイ、とキッチンに飛び込む。 良太はと言えば、俺の自由の聞かない左手をそっと手にとって、ふふん、とほくそ笑んだ。 「ねぇ、答え聞かせてよ」 もう一本、折って欲しいの?そう言われた気がした。 良太の白く綺麗な指は、まだ怪我のない小指にそっと触れる。急かすつもりはないんじゃなかったのか、背筋を走る悪寒に、俺は押黙った。 「わ、わかった、付き合う、から……」 沈黙に耐えきれず、つい弱音が出てしまう。 手を放してくれ、小さく漏れた声に、良太はうんうん、と頷いた。 「ありがとう、キラ君。僕の気持ちわかってくれたみたいで嬉しいよ」 良太はそのまま、包帯でぐるぐる巻きになった中指にキスを落とす。 もうどうにでもしてくれ。虚無感に包まれながら、机に頭を垂らした。 [*前][次#] [戻る] |