透明光速 七月03 水着の準備をして、浮き輪とビート板(自前)を用意し、いざ海へと闊歩する俺に、二人はいやいや、と待ったをかける。 「高校生になって浮き輪とビート板はないでしょ」 「キラ君まじなの?バタ足も出来ない系?」 二人の必死な言いぶりが、何だか蔑んでいるように見えて、俺は急に恥ずかしくなった。 そして、自分の姿を確認して、問いかける。 「え、え、これ、何かやばい?」 俺の慌て方に、二人はうんうんと頷く。 せめて浮き輪とビート板はよそうか。加瀬が言う。 良太は泳ぎ方ぐらいすぐ覚えるよ、と軽く笑った。 水は友達とか言った人は謎の魚類だと思う。 普通に沈むだろ。こんな中でどうやって動けと言うのだ。 息継ぎのいの時もわからない俺に加瀬はやんわりと、良太はスパルタで教えてくれた。 でも正直全く身についてない気がする。 「今此処で泳げるようになってもさ、無駄じゃん」 タオルで顔をわしわしと拭きながら言った言葉は、我ながらふてくされていたと思う。 でもそうだろ。うちの学校、プールないし。 加瀬と良太はうーん、と唸った後、それもそうだけどさ、と言いかけた。 「何だよ、はっきり言えよ」 二人はえっと、と少し言いにくそうにする。良いから続けなさいよ、と俺が促すと、良太が口を開く。 「だって夏まだまだこれからじゃん。その間に、三人でプール行ったりしたいわけですよ」 加瀬がうんうん、と続ける。だから少しくらいだったら覚えても損はない。二人の率直な言葉に、俺はひねくれかけた心を取り戻した。 「畜生、そんなに言うんだったら今日中に25メートル泳げるようになってやるよ!」 「あ、それは無理だと思う」 「トール!」 加瀬と良太は、何と言うか、馬鹿正直な奴らなんだな。 俺は軽くショックを受けながらビート板を取りに行った。 [*前][次#] [戻る] |