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透明光速
六月05
 「何でかと、言いますと……」

濁る濁る。自分でも言ってて面白くなる程に、口から漏れ出す声は濁っていた。

 ー言ってしまうか。いっそ、此処で。
お前が好きだから遠ざかりたいんだ、と。でも、そんな事を言ってしまえば、もう元には戻れなくなるんだろうけど。

心の底から、誘惑がじわりと浮き上るが、俺はそれを心の底に押し戻す。
馬鹿言え、それが出来たら掃除当番なんて面倒事を、わざわざ自分からしたりしない。
俺は助けを求めるように良太をちらりと見ると、良太は大丈夫、とでも言うように頷いた。

「そう言えばキラ君、妹さんが怪我したって言ってたよね」

だから部活より早く終わる掃除当番にしたんじゃないの、良太はそう言うと、加瀬に向き直った。
加瀬はと言うと、そうなの?と言ったような、不服そうな信用しかけた表情をしていた。

「いや、それが結構重傷でさ。毎日迎えに行ってるんだわ」

よくまあこんなスラスラと嘘が言えるもんだ。
いや、妹が怪我したのは嘘じゃないが、迎えに行く程ではない。
良太に感謝をしつつ、わかったろ、と加瀬に言うと、加瀬はうん、と呟いた後、勘違いしてごめんね、とちりとりを手渡してきた。

 保健室を出てから、加瀬と良太は今日の料理の話題で盛り上がっていた。
そんな二人の背中は眩しくて、俺はそっと目を閉じる。
これでいいんだ。下手に言ってしまって、加瀬とギクシャクする方が、嫌だ。

小さな決意をしながら、二人の背中を見つめて居ると、加瀬はあ、と声を上げて振り向く。
目があって、一瞬どきりとした。

「でもさ、今度何かあった時は一番に俺に言ってよね。……幽霊部員再び!とか、洒落にならないし」

何より寂しいし。加瀬の裏表ない言葉が、俺の決意を揺らがせる。
俺は、赤面した顔を見られないように、頷くふりをして俯いた。

 良太が、そんな俺達を見て、どんな表情をしていたか。その時の俺は、気づく事が出来なかった。

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