透明光速 五月05 そっと目を開くと、自分のホームである保健室の天井が見えた。なんで此処に居るんだろう、ごく当たり前な疑問を抱くと、頭上からキーンコーンとチャイムの音が響いた。 「……っ痛」 頭の中に、ビリビリと音が響く。 起き上がろうとすると、待ってましたと言わんばかりにカーテンが開けられた。 加瀬が、むっとした表情でベッドに近寄る。 「アッキー。風邪引いてるのに学校来たでしょ」 授業前に倒れるんで大変だったよ。 加瀬は首をコキリと慣らして宣う。 俺は言葉に詰まる。皆勤賞狙いで無理をした事を酷く後悔した。 どうやら既に放課後らしい。 夕日が加瀬を照らして、加瀬の顔が赤く見えた。 「ごめんな、今日、部活」 予想外に掠れた自分の声に、ああ本当に風邪なんだと自覚が沸いてくる。 しかもどうやら加瀬が此処まで運んで来てくれたようだ。 謝らないと、と言う気持ちでいっぱいになっていた。 「ごめん、加瀬」 そこまで言いかけて、加瀬の手のひらが俺の口を塞ぐ。 ひんやりとした手が、風邪人は黙ってなよ、とそう言っているような気がする。 その姿に、何故か胸がドキリと高鳴った。 「心配させないで。授業だって集中出来ないし。一人で料理するの楽しくなくなっちゃったし。誰と話してもつまんないし……風邪、うつったらアッキーのせいだからね」 言いたい事がいっぱいあったらしい。 加瀬が一生懸命に呟いた言葉を、一つ一つ頷いて聴く。 保健医を呼ぶ為にベッドから離れた加瀬の背中を見つめながら、俺は風邪とはまた違った謎の胸の高鳴りに驚き、ある事を思い出していた。 ー加瀬が呼ぶから、俺は反応出来るんだ。それってつまり……。 [*前][次#] [戻る] |