透明光速 五月04 「おはヨーグルト!今日もいい朝だねー」 加瀬が何時もの様に、剽軽な挨拶でターンしながら教室に入って来た。 クラスメイトはくすくすと笑いながら挨拶を返す。 「グッモーニン近くの席の諸君。そしてアッキー」 「うわっ」 その様子をぼんやりと見つめていた。 だから急に自分の耳元に声が降って来るとは思っておらず、俺は驚いていじっていた携帯を落とした。 「朝からびっくりさせんなよ。寿命縮んだだろーが」 「寝ぼけてるアッキーが悪いよ。でも俺の味噌汁で寿命復活させたげるから安心してね」 ウインクしながら俺の前に腰を降ろす。 今日も雑誌の勉強に余念がないようだ。 味噌汁にそんな効果があるなら皆喜び勇んで飲むだろうよ。 老人ホームとかそうなんだろうか。 落とした携帯を拾いあげ、苦笑しながらそんな事を考えていると、ふとある事に気がついた。 そう言えば、案外すっかり馴染むもんだな、新しい呼び方でも。名前や呼び方なんてどうでも良い物なんだろうか。 いや、そうではないな、近くの席のクラスメイトに急にアッキーと呼ばれても、多分俺はちゃんと反応出来ない気がする。 ん?つまりそれはどう言う事だ。加瀬が呼ぶからなのか。 あれ、何か混乱してきた。 「タナカ、おい、ちょっとここ教えて……ってあれ、タナカ?」 隣の席の奴が何か必死に問いかけてくる。 しかし何を言っているのかが聞き取れない。耳を傾けても、どんどん遠くなってく気がする……。 加瀬が呼ぶ声を最後に、俺の思考は深い底へと落ちていった。 [*前][次#] [戻る] |