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恋の仕方なんて知らなかった。だから無防備に恋に落ちた。

物心つく前から、私は様々な教養を身につけさせられた。
ダンスは勿論ピアノ、バイオリン、貴族の立ち振る舞い、食事のマナーなど、数え切れない沢山の習い事。

一度、これをすることに一体何の意味があるの、と母に尋ねたことがあった。そのとき母は大きくなったら分かるわよ、と苦く微笑んだのを覚えている。


(確かに、分かったけど…)


きらびやかなダンスホールに、目が眩むほどのドレスや宝石。

社交界デビューなんて聞こえはいいものの、そんなものは体のいい大人達の言い訳だ。
少しでも自分達の利益を得るために品定めをする品評会。その呼び方の方がしっくりくる、そう思った。


(何がいい所、よ)


父親が外出を促すのを渋ったところまでは上手くいっていたのに、仲の良い執事とメイドに言いくるめられてこんな所まで来てしまった。

これ以上逃げられないと悟って、今まで避けてきたツケが回ってきたに違いないと観念したが、貴族の娘の人生など決まっているのだと笑われた気がして釈然としない。
蝶よ花よと可愛がってくれたのには感謝しているが、政略結婚を仕組まれるためのパーティなのだと分かっていては、いくら実の父親でも恨み言の一つや二つは零したくなる。

件の父親は、どこかの貴族と談笑していた。


(今日は遊ぶ約束してたのになあ)


メルトキオの広場で遊ぶ友達に想いを馳せる。
メイドを拝み倒して家を抜け出し外出前に断りを入れたが、それでもこの退屈なパーティと比べたらひどく魅力的だった。かくれんぼ、おにごっこ…何をして遊んだのかと考えるだけでつまらないパーティが更につまらなくなる。

何があっても笑顔でいろ、という父親の言い付けも忘れて私は溜息をついた。しかしそれが思ったより大きく響いたので慌てて口を押さえる。
すると隣からくすくすと笑う声が聞こえて、声がする方を見た。

年は同じくらいだろうか、鮮やかな朱い髪に藍緑色の瞳。
一瞬少女かと見間違うほどの整った顔立ちにどきりとする。


「…退屈だよね、パーティ」

「え」

「僕も今逃げてきたところなんだ」


言った少年の視線の先には沢山の大人達がいた。少年に気付いて彼等が会釈をする様子に、余程身分の高い貴族の御子息なんだなと理解する。


「君、名前は?」

「…ノエルよ。あなたは?」


そう言うと彼は面食らったように瞳を見開いて、やがて嬉しそうに笑った。


「――ゼロス」


その屈託のない笑顔に目を奪われる。
薄汚れた社交界の中でも輝いて見えた彼に、思えばこのときから惹かれ始めていた。


恋の仕方なんて知らなかった。だから無防備に恋に落ちた。


(それは、まだ幼い私の過ち)




up:10.03/30


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