01 であう


「君、神経衰弱は得意?」

「神経衰弱ですか?そーですね、わりと得意ですかね」


本当のことだった。
カードゲーム全般において強い方だと自負しているが、その中でも神経衰弱は得意だ。特別頭がいい訳でもないのに、滅多なことでは負けない。

質問にへらっと笑って答えると、尋ねた本人は目を輝かせた。
…なぜ神経衰弱?



***



今春、なまえはめでたく第一志望の大学に入学した。
一変する環境に不安もあったが、学科の顔合わせでは新入生同士仲良くなれたし、先輩方は面白可笑しく歓迎してくれた。サークルはどれもこれも楽しそうで悩んでしまう。
あっという間に期待が緊張や不安を上回り、大学生活の順調なスタートになまえはワクワクしていた。

そして今日は先輩方が開いてくれた新歓だ。先輩方と仲良くなるチャンス。一も二もなく参加を決めた。


「じゃ、なまえちゃんは周防の隣ね!」

「あっ、はーい」


上手く交流できるようにと割り振られた席につく。既に座っていた隣の先輩、が周防さんなのだろう。無表情ではあるが、少したれ目の優しそうな人だ。


「えっと、みょうじなまえです。よろしくお願いします」


会釈すると、向こうもペコリと返してくれる。
こちらからは話しかけ難いので待ってみたが、彼はぼんやりと席を割り振られていく様子を眺めていた。…どうも我が道を行く人のような感じがする。
見ていると不意に視線が合ってしまった。とりあえず笑っておいた。


「よっし!みんな座ったな?じゃあグラス持ってー」


全員が席につき、それぞれのグラスを持ち上げる。なまえもカシスオレンジを揺らし、かんぱーい、の声に「かんぱーい!」と繰り返して周りとグラスをぶつけ合った。


「あの、周防さん…ですよね。下のお名前は何と仰るんですか?」

「………さし…」

「久志さん?」


聞き返すと、周防さんは何故かほんのちょっと動きを止めた。そしてすぐに頷いてくれる。周防久志さん、か。
他にも学年や出身高校などいろいろ訊いていると、向かい側に座る先輩が感心したように口を挟んできた。


「なまえちゃんよく周防さんと会話できんねー!周防さん声ちっちゃくない?」

「そうですか?ふつうに聞こえますけど…」


というのはまぁ立て前だけども。確かに小さくはあるが、聞こえないことはない。
その先輩はそーお?といぶかしげな顔をする。そーですよ、と笑って周防さんを見ると、周防さんは目を丸くしてこっちを見ていた。…な、何?

そのまましばらくじっとわたしを見ていた周防さんは、「そっか、耳がいいのか」だの「記憶力と読みが良ければ」だのとぶつぶつ呟きだした。かと思うと唐突にガシッとわたしの腕を掴む。思わずビクッとなってしまった。


あまりにも真剣な顔で見つめられ困惑するわたしに、周防さんは尋ねる。やはり小さい声で。


「君、神経衰弱は得意?」



そして冒頭に戻る。



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あきゅろす。
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