カロスで息をする(ポケモン/ズミ)150409
※ポケモンXYトリップもの。訳も分からずカロスに飛んできて、ズミさんの元で監視かつお世話になっています。
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日本にはポケットモンスターというゲームがあった。その第一作と同じことが、この世界のカントーという地方でかつて起きたのだという。とある男の子が、ジム巡りの旅をしながら悪の組織を壊滅させ、ポケモンリーグを勝ち抜いた。
私から見れば、私の世界で作られたゲームの通りにこのポケモンの世界が存在しているように思える。だが、ズミさんは例のゲームの話を聞いて、どこか遠慮がちに言った。


「もしかすると、こちらの世界からあなたの世界へと渡った人間が、こちらでの出来事を元にしたゲームを作ったのかもしれませんね」


正直に言って、ぞっとした。
違うはずだ。ポケモンというゲームのストーリーは、あのゲーム会社のストーリー担当の人たちが、数多の案の中からああいう筋書きを選び出したにすぎないはずだ。すでに起きた出来事を、決まりきったひとつの道筋を、そのままゲームにしたなんてことはないはずだ。万が一、こちらからあちらに飛んだ人がいて、その人が例のゲーム会社に就職したなんてことがあっても、ひとりの人間が提示したストーリーを一言一句そのまま採用したりはしないだろう。なんせゲームは商売のために作られるのだから。

ところで、この世界で息をしていると、この世界がたかがゲームの道筋をなぞっているだけ、と思うことが難しい。人が生きているのに、天候が変わるのに、草花も好き勝手に芽吹くのに、どうして繋がりもしない世界の玩具の中にある筋書きをそのままそっくり辿ることなどできるだろう。

『ポケットモンスター』が、この世界の出来事を元に作られたとは思えない。
この世界が、『ポケットモンスター』の筋書きをなぞっているとも思えない。

そんなことを、日々をぼんやりと生きながら考え続けていたら、もうどうしようもないというところまで辿り着いた。
つまり、『ポケットモンスター』とこの世界とはまったくの別物で関連性は一切なく、起きる事柄が一致しているのはただの奇跡だ、ということだ。
そんな馬鹿な、と言いたい奴は言えばいい。もはやこれでしか感情が納得しないのだ。カロス地方がカロスと呼ばれる前から、この土地はこの星と共に誕生して、数十億と言う年月の間に少しずつ変動して、海で生命体が生まれ、それが陸に上がり、進化して人やモンスターとなり、この土地の気候のもとでそれぞれの社会を育んで、今日に至るのだ。どこぞのちっぽけな玩具の筋書きなど知る由もない。そして私は、『ポケットモンスター』というゲームをあの世界に生み出した人たちの努力もまた信じたいのである。日本の関東を舞台にして、数多の人物を作り、モンスターを作り、ゲームバランスを調整し、そして練りに練ったあのストーリーこそが最高であるとして世に送り出した彼らの「仕事」は、決して どこかの世界の出来事を切り取ってシステムに落とし込んだだけの作業ではなかったはずだ。

ゲームはゲーム。カロスはカロス。
よく似ているけど、それがどうした。

後日、ズミさんにそんなことをぽつぽつと話すと、ズミさんは黙って頭を撫でてくれた。
そうだ。もしもあちらへ帰れないのなら、私はこのカロスを見つめて生きていくしかないのだ。『ポケットモンスター』がどうであろうと。
その日の夜は、押しつぶされるような悲しみに泣いた。



改めて私の状況を誰かに説明するとしたら、日本からフランスへ来たようなものだと言うのが一番適切だろうな、と思う。言葉が通じて、ポケモンがいる、歴史あるフランスへ。
日本ではとあるゲームがシリーズで発売されているが、そのゲームのストーリーはたまたま某地方の史実と一致している。そしてここフランスと日本とはすでに時空的に切り離されていて、やりとりは一切できない。帰れる可能性もゼロに近い。ついでにいうと、関東があった場所にはカントーがあり、九州にホウエンが、北海道にシンオウがある。すべての土地にポケモンが生息する。

ここはゲームの中なんかじゃない。フランス、もといカロスと呼ばれる地方がある。私は何故かここにやってきてしまった。とてもショックで途方に暮れてはいるけど、自殺なんかすると面倒をみてくれているズミさんに迷惑がかかってしまうので、ひとまず生きていかなければならない。

いつかまた、生きることを楽しいと思えるんだろうか。



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カロスを現実として表現する試みでした。
自己設定:ポケモンの力はまだまだ未知なので逆神隠しみたいなのも歴史上ちょいちょいあって、そうやって現れたのが人であった場合は現れた場所である町の責任者(ジムリないし四天王)が警警察の協力のもと一年間監視下に置く…とか何とか。




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あきゅろす。
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