新年も生きていく(ケロロ軍曹/ガルル中尉)150106
※人型設定です
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「『アケマシテおめでとう』とは、どういう意味かね?」

「! ……中尉」


突然後ろから声をかけられ、驚いて振り向く。
パーティー会場の賑やかな明かりを背負い、ガルル中尉がこちらを見ていた。それからコツコツと靴を鳴らして歩いてくる。


「昼間に、同期の者と挨拶を交わしていたろう」

「はい」

「『アケマシテおめでとう』と、言っていたように思うが」

「…はい。でも、ただの…お決まりの言葉みたいなものです」

「ふむ」


コツンと最後に鳴らして、中尉はすぐ横に並んだ。
ケロン軍の新年を祝うパーティー会場の外。暗く静かなバルコニー。
会場から漏れてくる明かりも、階下の庭を飾り立てるイルミネーションの輝きも、頭上に広がる宵闇へと逃がされてここに留まらない。


「前にも聞いたな。彼女との間には“お決まり”が多いようだ」

「…そうですね。特に親しくしている友人ですから」

「結構なことだ。信頼できる同僚は大事にしなさい」

「はい」


穏やかな声音。そうっと見上げると、薄明かりに照らされた横顔。
今のご機嫌は問題なさそう。

ガルル小隊に仮配置となって一年。ケロン軍最高精度スナイパーと名高いガルル中尉を師とし、必死にやってきた。
個性的な隊の面々はともかく、ガルル中尉の声や表情を少しでも読み取れるようになったのはわりと最近だ。
あと九年で、どこまでいけるだろう。


「…上の方々へのご挨拶は、もういいんですか?」

「ああ、一通り済んだ。余計に付き合っていると面倒事を振られかねんからな、そろそろ撤退だ。
明日の作戦もあるだろう、隊全員で下がるぞ。君も挨拶回りはもう構わんか?」

「! はっ!」


聞いた途端に気が引き締まった。明日はさっそく今年初の参戦である。
…ということは、もしかしなくても、中尉はわざわざ私を呼びに来てくださったのだろうか。ド新兵の私を。

思わず意気込んで返事をすると、中尉は微かに笑った。


「本年もよろしく頼む」

「!!! あ、えっと、本年も、ご指導ご鞭撻…のほど、よろしくお願いします!」


言ってから、猛烈に顔を背けたくなった。言い慣れてないのがバレバレだ。
今度は、はっは、と声にして笑われた。
…せめて笑ってくれてよかった。


中尉がバルコニーの手すりから身を離した。パーティーから下がるため、一旦会場へ戻るのだろう。
従う態勢をとると、穏やかな声が降ってきた。


「君たちの“お決まり”について、いつか聞かせてもらいたいものだ」





中尉は真剣な顔でこちらを見ていた。

私は、たぶん、泣きそうな顔だっただろう。



「明けましておめでとう」という言葉が、ケロン星で当然に用いられたことはない。
私と友人が共有するのは、かつて地球で生きたという幻のような記憶。

知られることは禁忌だろうか、それともこの上ない幸運だろうか。



俯いた私の腕をとって、中尉はゆっくりと歩き出した。
迎春の歓びに賑わうパーティー会場へと向かって。



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ガルル小隊5人目の戦闘要員(プルルは看護要員としてカウント)、中尉に弟子入りするスナイパー新兵のお話です


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あきゅろす。
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