他愛もない
「じ、自分の死亡記事…ですか?」
「へーえ!ジャッポーネでは変わった授業をするんですねえ」
「いやたぶん普通はやらない…。わたしの先生がちょっと独特で」
「えー?自分の死亡記事なんて、なんか怖いじゃない」
「そもそも自分が死んだ記事なんか書いて何の勉強になるんだ」
「うーん?自分…の人生を客観的に見てみようってことかなと思うけど」
「客観的になあ。例えば?」
「例えば…」
ナマエはテーブルについた面々をぐるりと見渡した。
即席でぱっと考えてみたその文は、思うだけでなんだか笑える。
ああおかしい!
一人笑いを堪えるナマエに変な顔をするデッロルソのメンバー。
「例えばわたしの記事だとしたら、“日本人女性、働いていた店のカメリエーレ全員と浮気!嫉妬した常連客に殺される”みたいなさ……ぶふ!ふっふっふ」
「はあ!?」
「ああ、勝手に作ってしまっていいんですね、文を」
「そうそう!生まれと現在まではそのままで、自分がどんなふうに生きて、いつどこでどんなふうに何歳で死んだかっていうのを自由に想像するの」
「ははーあ、そこに個性が現れるってことですよねえ。いやあ面白い」
「そうなんだよね。日本では本も出てるんだよ」
「はあ?“自分の死亡記事”のか?」
「うん、編集者がいろーんな人に『自分の死亡記事を書いて下さい』ってお願いして、それをまとめたもの。けっこう面白いよ」
「へーえ」
「ノーベル賞とって笑える死に方した人とか、漫画好きすぎて漫画の世界を一新したけど漫画の本棚の下敷きになったとか」
「はは」
「皆ならどう?」
それぞれ考え込んだ面々を楽しい思いで眺め、ナマエはフォークに巻き付けたパスタを口に入れた。今日の賄いも素晴らしい。
ところでこの店のカメリエーレ全員と浮気したら、常連客の前にニコレッタに殺されそうなんだけど。
フォークを喰わえてうーんと唸るニコレッタを見つめてナマエは微笑んだ。
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