リッツォ氏の恋
「“泣かせた男になかったものが自分にあると思わないで”…?」
「そう言ったらしいの、相手の人がリッツォ氏に」
泣かせた男になかったものが。
言葉を噛み砕いて意味を飲み込むと、感動と憧れの塊が突き上げてきてナマエは「ひえー!」と思わず小さく足踏みをした。頬が熱くなる。
「か、かっこいい…!言い回しすごいかっこよくない!?」
「あ、そっちなんだ」
「えっ、だって、そんなセリフ素で言えるー!? どんな女性よ!かっこいいなぁ」
興奮しながらクリームを泡立てるナマエと、下ごしらえを続けながらうーんと唸るニコレッタ。
フリオが微笑ましそうにクスリと笑って、テオは「アホらし」とドルチェの仕上げに戻った。
「素敵だなーさすがイタリアだよねー」と呟いていたナマエは、「…うん?」しかしピタリと止まって宙を見上げた。
「ニコレッタ、それってあの、ルチアーノの娘さんの演奏会の…会場のすぐ外で言われたんだっけ」
「ええ。娘さんはマルゲリータね」
「うん。で、その女性は泣いてたんだよね」
「そうね」
娘さんが落ち込んでいるという愚痴を、最近ルチアーノに聞いたような。
友人がスタジオのご主人と浮気してたとか?ご主人に浮気されたサヴィーナさんがレッスンを見てくれないとか?
その演奏会にも、来るって言ったのに結局来なかった、とか。
…おやー?
「いやいや、関係ない…よね? ない…ないかなぁ」
「なーにナマエ、一人で考えてないで言ってよ!思い当たることでもあるの?」
「うーうん、全然関係ないこと……ないかー?」
「聞かないでちょうだい」
えええ
サヴィーナー?
「手ぇ動かせ!」とテオの投げた何かのフタが頭にヒットした。
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