新入り見習い

クラウディオは、客の一人がどうも他と雰囲気が違うことに気が付いた。

アジア系の顔立ちの、一人でテーブルに着く女の子である。
未成年と思しきアジア系の女性が、しかも一人でいるというだけでもう事情を尋ねてみたいほど気になりはするが。余計なお世話はさておき。


その彼女が、運ばれてきた料理を観察するばかりでなかなか手をつけなかったり、ようやく食べたと思ったら難しい顔で口元に手をあてて考え込んでしまったりするのだ。


今もまた、やっと二口目を食べながらまた料理の観察に戻ってしまったところである。
何やらフォークで料理をつついたりして。

一度気にし始めるともう気になって仕方がない。
もしかして口に合わなかったのだろうか。それとも何か他に問題が?


声をかけようか迷っていると、後ろから軽く肩を叩かれた。


「クラウディオ、どうかしました?さっきから様子がおかしいようですけど」

「ああ、ヴィート…」


クラウディオはヴィートに寄って耳打ちした。ヴィートはああ、と相づちをうつ。


「あちらの女性ですよね?わたしもちょっと気になってはいたんです」

「そうなんですか」

「何というか、入店した時から店内を観察するみたいに周りを見ていらしたりとか…。のんびり食事を楽しみにきた感じではないですよね」


ヴィートまでがそう言うなら確実だろう。
食事の邪魔をするのは気が進まないけれど、何かあるなら声をかけて差し上げるべきか。


その旨を告げるとヴィートは「お願いします、カメリエーレ長」なんて言ってヒラヒラと手を振った。もちろん他のお客様には見えないように。
…ルチアーノが睨んできているが。


クラウディオがそっとテーブルの傍に寄ると、さすがに向こうも気付いたらしく顔を上げる。
クラウディオは丁寧に一礼して、なるべくやわらかな調子で尋ねた。


「失礼致します、スィニョレータ。先ほどから難しいお顔をされていらっしゃるようですが、料理がお口に合いませんでしたか?」

「…ああ、いえ、すみません!そういうんじゃないんです。美味しいです、とても」


きょとんとこちらを見上げていた彼女は、クラウディオの言葉に一拍おいてから慌てたように手を振って否定した。そして「とても」に力を込めて賞賛する。
感情が素直に見てとれて、余計に幼さが際立つな、とクラウディオは思った。澄ましていれば年相応に大人びて見えるのだろうけど。

それから彼女は「えっと、」迷うように視線を料理の上で泳がせ、やがてしっかりとクラウディオを見つめた。
ジジとはまた違う漆黒の双瞳。


「本当に素晴らしいお料理だと思います。是非シェフの方とお話したいのですが、出来ますか?」



***



呼ばれて来たヴァンナと彼女は何やら会話で盛り上がり、何故かすぐにテオもその場に加わった。
ギョッとしたルチアーノが二人をキッチンへ押し戻し(何せキッチンが空だ)、彼女は彼女でゆっくりと食事を済ませてお帰りになった。
しかしその後、近くのバールでヴァンナとテオの二人と待ち合わせていて長らく話し込んだ、というのは後に聞いた話で。


翌日も彼女は現れ、開店直後で客の少ない中、時にヴァンナやテオも交えながらオーナーと何事かを話していた。
さすがに何かあるのだろうかと思っていたら、


さらに次の日。



「今日からこちらで見習いとして修業させて頂きます、ナマエといいます」


よろしくお願いします。
深々とお辞儀をした彼女に、嬉しそうなシェフ組ふたり。

いち早く情報を掴んだヴィートから「ナマエはジャッポーネのシェフなんだって」と紹介があり、クラウディオは目を丸くしたのだった。



***



「え、わたし22ですよ」

「…嘘だろ?」

「…いくつと思ってたんですか?テオ」

「てっきり18かそこらだと」


わかりやすくナマエが落ち込みテオはヴァンナに一発くらったので、まさか同じように思っていたとはとても言えない面々だった。



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