3-01 大広間の夜

夜も更けた頃。

たまたま本を呼んでいて一人起きていたナマエは、ノックされた女子寮のドアにそっと立ち上がった。


「どなたですか…?」

「我輩だ」

「…スネイプ先生?」


開けた先には、ひどく顔をしかめたスネイプがいた。


「グリフィンドール寮にシリウス・ブラックが忍び込んだ。生徒は全員、今すぐ大広間へ移らければならん…他の者を叩き起こせ」


ナマエは驚いた顔をしてみせて、内心で歓声を上げた。


**


「あらー…スリザリンが最後か」


情報が回ってくるのが遅かったのだろうか。…いや、寮監を責めはすまい。
生徒でごったがえす大広間に着いたナマエは、すぐにユカと合流した。二つの寝袋を確保済みのユカもまたにこにこしている。


「やっとだね!」

「ここで寝れるの、学生生活の中で今日だけだからなぁ…待ちに待ったよ」

「こーんなきれいな天井なのに、普通はここで寝たりしないまま卒業だもんねぇ。もったいない」

「まったくだ。さてと、どこで寝る?」


大広間の灯かりが消されても、ふたりは延々と夜空を仰いだ。囁き声がだんだん減って、周囲の寝息が増えていく。


修学旅行だとか普通の旅行、また今日みたいな特別な日を、期待しすぎながら待つのは良くないと思う。
肝心の当日に実感がわかなくて、時間が過ぎるのを惜しがってばかりで、全身と五感ぜんぶで“特別”を楽しむことが出来なくなるからだ。

だけどこの大広間で夜を過ごせる日を、ずっと楽しみにしていた。


スネイプ教授とダンブルドアの密やかな話し声が遠くに聞こえる。


「もうここで寝れないなんて信じられないね。こんな綺麗なのに」


隣でユカが囁く。ナマエは頷いて、頭の下に手を組んだ。

寝袋の海。さらさらと音がしそうなほどの星々。ゆらめく銀河。
今日限りの夜。


**


気付かなかったが、ハリー・ポッターはわりと近くに寝ていたらしい。近くまで来たダンブルドアとスネイプに、起きていたことがバレてしまった。
スネイプは顔をしかめ、ダンブルドアはふぉっふぉと笑って髭を撫で付けた。


「あの天井の魔法はワシがかけておる。こんな夜じゃが、楽しんでくれているなら何より。しかし明日の授業がちとキツくはならんかのう?」


去り際、スネイプはしっかりと「減点されたくなくばさっさと寝たまえ」と釘を刺していった。

ナマエとユカは声を出さず笑った。
いい夜だ。


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