1-03 昼食後に続き

昼食後、満足するまでご飯を食べた二人は、かぼちゃジュースと食べ物のいくつかを持って必要の部屋の入り口を潜った。
内緒話が出来る部屋、と同じことを念じたので、部屋はまったく同じ内装で現れた。


「さーて。どこまで話したっけ」

「ホークラックスは無理でダンブルドアに話すのもダメで、原作の通りにしようってところまで」

「…うん。お腹いっぱいになったら集中途切れた。昼寝しない?」

「さんせーい」


和室と布団を思い浮かべると、内装は一気に様変わりした。
畳の上で二人は慌てて靴を脱ぎ、現した新聞紙の上に置いて隅に寄せる。
冷蔵庫、は無理なので下段にドライアイスを敷き詰めた小さな冷蔵庫もどきを思い浮かべ、かぼちゃジュースやパイなどを入れておいた。
あとは布団に潜り込み、目を閉じるだけ。

懐かしい畳のい草の香りに、二人は何とはなく目尻に涙を滲ませた。

なんとも幸せなお昼寝時間。


***


睡眠のサイクルは90分間隔だという。ちょうど倍の3時間後に二人とも起き出し、布団の上で伸びをした。


「よく寝たー。すっきりした」

「障子の向こうに中庭、とかあったらもっといいのにね」

「まぁこの部屋が和室にもなるってわかっただけでも十分だよ」


せっかく部屋が和室になったので、内装は戻さず布団を消してちゃぶ台を出した。
ああ、日本だ。でも手元にはかぼちゃジュース。


「原作に沿うんだっけ」

「うーん、でもそのまんっま原作の通りにしたら、わたしらいる意味ないよね」


ナマエは「そのまんま」を強調して言った。ユカもそりゃそうだと頷く。


「そもそも何でこの世界にきたかもわからんけどね」

「それは言っても仕方ないから置いとこう」

「うん。えー、じゃ、どうする?誰か助ける?」

「誰助けられるかなぁ」


またもや二人で黙り込み。
そしてユカがスパッと口火を切った。


「シリウス助けたい」

「シリウスか…。5年でハリーが魔法省に行くのを止めるか、一緒に行ってベラトリックスから守るか」

「じゃあ実力つけながら5年までに考えればいいかな。あとフレッドとか、リーマスとトンクス!」

「最後の戦いの時だよね。これは難しいなー」


二人して唸る。
出来るなら3人に限らず、最後の戦いで死んでしまう人たちを生かしたい。
二人で守るには数にも魔法力にも限りがある。どうすれば。


「…全員にあの“幸福の液体”ってのを飲ませたらどうだろう」

「!! それいい!でもあれ作れるのかな…。すごい貴重なものじゃない?原作には何て書いてあったっけ」

「わたしもあんま覚えてないけど、スラグホーンがハリーに…っていうか生徒にあげちゃうくらいだから、調合して作れると思うよ。難しいだろうけど」

「そっか、そうだね」


今度はユカがシャーペンと消しゴムと紙を呼び出した。一番上にでかでかと「やることリスト」とタイトルを書き、その下に黒丸を打って「幸福の液体を作れるようになる」と記す。


「作るのに長い時間が必要だったりするかもしれないし、今年のうちから作り方調べた方がよさそうだね」

「ああ…」


ナマエの言葉に少し考え込んだユカは、もう一枚紙を現して「1年生からやるべきリスト」と書いた。なるほど、とナマエは笑う。


「ダンブルドアは?助けられるかな」


シャーペンを握ったユカが問い、ナマエはぎゅっと目を瞑った。

わたしたちの保護者。本当は過去を酷く悔いている人。おじいちゃんと呼んであげると喜ぶ人。
大好きだ。助けたい。だけど、原作の上でダンブルドアの死は重要なことだ。ダンブルドアを倒したからスネイプは完全にヴォルデモートの信頼を得たのだし、その前にダンブルドアは呪いのかかった指輪を身につけて寿命を1年に縮めていた。

ダンブルドアを助けるとするなら指輪からだ。やはり指輪だけでもわたしたちで探しに行くか?しかし場所がわからない。それに指輪を壊せても、洞窟に行くのを止めなければならない。洞窟で、ロケットを取り出す為の毒薬を飲ませてはいけない。だけどどうやって彼らを止める?洞窟にあるホークラックスは偽物ですと教えるのか。

それに、ダンブルドアを助けると、7巻の物語はどうなる。根底からひっくり返るじゃないか。誰をどう助ければいいかわからなくなってしまう。
いやしかしそれは自分勝手だろうか。物語通りに進まなければ困る、だなんて。


どうも嫌な方向に思考が流れる。しかし助けられないとは言い切れない、言いたくなくて、ナマエはゆっくりと口を開いた。


「ダンブルドアはどうすればいいかよくわからない。置いておこうよ」


ユカも複雑な顔で頷いた。難しいと、同じことを思っているのだろう。
ナマエは頭を切り替えて、きちんと順に辿ることにした。


「人が死ぬのは…4巻から?…そうだ、セドリック・ディゴリーだ!どうやって助けよう」

「セドリックか…。魔法学校の対抗試合だったね」

「わたしらはエントリー出来ないし…。ハリーとセドリックが同時に迷路に入るからダメなのかな。その前の試練でどうにか妨害してセドリックの順位落としとく?」

「迷路に入るタイミングずらしても、結局ハリーと同時にカップに着くかもしれないよ。この世界は原作に沿おうとするのかな?それとも、ひとつズレたら全部ズレてくるのかな」

「…何か試してみないとわからないね」


ユカは1年生でのリストの方に黒丸を増やし、「手を加えても原作通りに進もうとするのか調べる」と書き足した。
これは大事だ。後でまた詳しく考える必要があるだろう。


「4巻は良し、5巻シリウス、6巻はダンブルドア…。ああ、わたしスネイプ先生助けたいな」

「どうやって助ける?」

「…ナギニに咬まれた後、少し時間があるから、薬か何かあれば…」


確実な薬が医務室にあるだろうか?首を咬まれただけでも重症なのに、ナギニが毒を持っているとしたら尚更面倒だ。
解毒と癒し。蛇の毒。

ナマエは思わず「あっ」と声を上げた。閃いたアイデアが悩みを明るく照らす。


「フォークスの涙だ!バジリスクの咬み傷癒せるんだから、ナギニの傷くらい治すよ!」

「じゃあそれを手に入れとく必要があるね」

「6巻でダンブルドアがいなくなっちゃうからそれまでに…?いや、来年がいいな。手っ取り早い」


ユカはやることリストに「フォークスの涙」と書き、カッコ書きで(2年生)と付け加えた。


「すると…わたしはリーマスたちの学校での戦いの方にいたいから、7巻のときは別行動になるね」

「そっか。そうなるね」

「7年後か。まったく、ずいぶん近い話じゃない?」


器用にもシャーペンをくるくる回しながらユカが皮肉げに言うのが可笑しくて、ナマエは笑った。


「おっと。マッド‐アイ・ムーディは?」

「うわあ、ムーディ…あの人箒に乗ってるときにデスイーターに襲われるんでしょ?助けたいけどキッツいなあ」

「難しい。じゃあ助けられるだけの実力つけてまた考えよう」

「…ん」


ユカは少し考えた末に、とりあえず「上手く箒に乗れるようになる」とやることリストに加えた。
他の項目と比べるとこれだけは短冊に書く願いごとみたいで、かなたは目を細めた。努力次第で叶うし、ムーディだって助けられる。


「さて!じゃあ誰を助けるとかは、ひとまずこれでいいかな?」

「いいんじゃない」

「そんじゃ、おやつにしよう」


昼食はのんびり食べたし昼寝もしたから、現した時計は午後4時を過ぎていた。

ユカは小さな冷蔵庫もどきからブルーベリーパイやアップルパイを取り出し、ナマエはかぼちゃジュースを注ぎ足した。
少し遅めのおやつタイム。ちゃんと夕食を食べられるだろうかと、ふと思った。



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