1-02 方針決めよう

もう9月も終わろうかという頃。
なんとか新生活のペースを掴んだ二人は、ようやく休日を今後についての話し合いに充てる余裕ができた。


必要の部屋が何階にあるか分からず、勘で4階から探し始めてうろつくこと一時間半。二人はやっと8階に目的の部屋を見つけ、滑り込んだ。
歩きすぎて小腹が空いたがこの部屋では食べ物は得られない決まりのはず。昼食まで我慢だ。


「…で。これからの…生き方?かな。どうしますかね」

「うーん」


しばらくそれぞれで考え込んでから、とりあえずナマエから口を開いた。


「まぁまず大まかに二通りあるよね」

「二通り?」

「原作に沿うか、そもそも最初から原作ぶち壊すか」

「…ぶち壊すって…いやいいけど。具体的には?」

「ダンブルドアに全部話すとか、わたしらで…えーとアレ、探し出して壊すとか。アレ名前なんだっけ、魂分けて入れるの」

「ホークラックス?」

「それだ。分霊箱」

「…二人でやるのはキツくない?ナギニとかハリーのはどうするの」

「わからん。そこは流れで」


ナマエはシャーペンと消しゴム、それに紙を思い浮かべた。羽根ペンは使いにくいしめんどくさい。
手元に現れたそれに、ホークラックスのある場所を書き留めていく。全部で7つ、内2つはハリーとナギニ。


「最初にホークラックスを見つけたのは…洞窟?あれっ、洞窟にあったのって偽物じゃなかったっけ?」

「だった。本物は今どこにあるんだろ」

「えー、ロケットは…原作ではアンブリッジが首にかけてるからハリーたちが魔法省まで取りに行くんだよね」

「その前はマンダンガスが盗み出す……の前、は、えーとクリーチャーが持ってる!」

「じゃあ今はシリウスの屋敷か。行き方がわからんなー」


3つめ、ロケットペンダント、シリウスの屋敷。
シャーペンって素晴らしい、とナマエは感動した。この書き心地。
レポートにこれ使いたい。


「あとレイブンクローの髪飾り?……あれトム・リドルが必要の部屋に隠したんじゃなかった!?」


思い当たったユカもナマエもギョッとした。此処じゃないか!
とんでもない物が手に入る範囲にあるとわかって、緊張と恐怖に思わず心臓が強く打つ。


「…そ、それはいったん置いとこう。後で試しに、探してみるとしても」


ユカは何度も頷いて、他には、と少し震える声で話を進めた。


「指輪。でもあれダンブルドアが見つけて壊したってしか書かれてなかったと思うけど」

「うーん?いや、ヴォルデモートがホークラックスを確認したときに場所が出てきたような」

「あいまーい」

「……。まぁ思い出したら付け加えるよ」


4つめの髪飾りは必要の部屋、5つめは指輪、場所不明。
情報を書き留めていく。


「グリンゴッツにも何か探しに行ってたね」

「ベラトリックスに変身して小鬼たちと大騒ぎになった…何だっけ?ハッフルパフ関連だよね」

「…何だっけなー」


彼ら四人に縁のある物、由緒ある物…と唸っていると、手元に「ホグワーツの歴史」が現れた。
もしかして載っているのだろうか、と目次に従いページを捲って目に留まる。
ハッフルパフの金のカップ。

6つめ。
金のカップ、覚えている限りではグリンゴッツのベラトリックスの金庫。


「あっ!あとリドルの日記だ」

「おお…忘れてた。日記はどこ?秘密の部屋…じゃないや。ミスター・マルフォイが持ってるんだ」


ラスト、リドルの日記、所在地マルフォイ邸。


大まかにではあるがざっと並べられたホークラックスの場所を見て、ナマエはふぅと息を吐いた。
…いや。これはちょっと、


「無理だね」

「うん、無理そう。大体、わたしたち未成年だから学校の外で魔法使えないんだよ。魔法省に取っ捕まるよ」

「そうだった。じゃあもっと無理だ」

「それにホークラックス見つけてもどうやって壊すのさ」

「…バジリスクの牙かな」

「秘密の部屋だね。来年まで待つか…いや、ロンはシューシュー言うだけで入り口開けたっけ?でもわたしたちバジリスクに殺されそう」


ナマエは噴き出した。確かに勝てる気がしない。
ユカは視線を巡らせた。


「他には…グリフィンドールの剣か。でもあれ組分け帽子がないと取れないんだよね。帽子に触るチャンスがないな」


上手くいかない。ナマエはシャーペンを紙の上に乗せて横においやった。


「じゃあとりあえず別の道行こう。ダンブルドアに全部話す?」

「話すとどうなるかな…」


また二人して考える。
静寂。


「物語からは思いっきり逸れるね」

「ダンブルドアは多分ホークラックス探しに行くよね…シリウスの屋敷はオッケー、指輪もそのうち見つけるでしょ、王冠はこの部屋にあるし…ハリーをどうするかな」

「ハリーはヴォルデモートが直接…えっと、殺さないといけないんでしょ?」

「ああ…そこんとこどうなるかわからないね」

「原作では…ハリーが死ぬように計画を立てて、でも失敗して、ハリーは死なずに済んだ。…計画通りにいってたらハリー死んだんだよね?」


二人とも険しい顔をした。そういえばダンブルドアは元々、ハリーがヴォルデモートに殺されるよう計画を立てていたのだ。


「…ダンブルドアに話してもさ、こうなるといいなってわたしたちが思う通りに計画を立てるとは限らないよね」

「んー…。スネイプ、ダンブルドアに尽くしたのに望みを叶えてはもらえなかったしね…」


ダメだ、とナマエは首を振った。それでは全てを話す意味が無い。


「じゃあもう、とりあえず今のところは原作に沿っていていいんじゃない?」

「そうだね…。あーなんか一気に疲れた」


ユカは大きなクッションを現してそれに倒れ込み、ナマエは壁掛け時計を思い浮かべて座ったままの足元に現し時間を確認した。


「あ、もう昼食始まるよ」

「ほんと!?あと何分?」

「15、6分かな。移動する?」

「する!ご飯食べてからまた戻ってこよう。パンとかデザートとか、ここに持ち込めそうなのも出来るだけ取ってきてさ」

「いいね、そうしよう」


ナマエはホークラックスの在処を書いた紙を破って燃やした。万が一、誰かに見られないとも限らない。そんなことになったら悲劇である。
シャーペンと消しゴムはローブのポケットに放り込んだ。この部屋から物を持ち出せるか否か、実験だ。




今にも鳴りそうなお腹を押さえて、ナマエとユカは必要の部屋を出た。


ちなみにシャーペンと消しゴムは部屋を出た瞬間に無くなった。
ものすごく残念だ。



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